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こらぼでほすと 花見5

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刹那が海中の侵入口から戻って来たのは、予定より少し遅かったが、概ね、予定通りの時刻だった。夕方というには、ちと遅い、という程度だ。そこで機体の簡単なチェックとデータの取り出しなんかを行い、整備はマードックと共に行なうことになるが、こっちはいいからニールのところへ戻れ、と、追い出された。整備のスタッフがヘリで本宅へ送ってくれて、そこからは寺へ搬送される。どうせ、データの報告や中東の簡単な報告は、キラたちにしなければならないから、本日、どうこうということではないらしい。

 戻ったのは、九時を少し廻った時間だ。ニールは寺に居るから、本宅のスタッフは、寺へ送ってくれている。山門を入って、家のほうに足を進めたら中から強烈な匂いがしている。刹那が、子供の頃に嗅いでいた食事の匂いだ。
 そのまま、居間に入ったら、「おかえり。」と、声が飛んで来た。台所から声がするので、刹那は、そちらに顔を向けた。
「オカエリ、刹那。グッドタイミング。」
 エプロン姿のアイシャとニールが、振り向いていた。この匂いは、中東風のカレーの匂いだ。
「ガーリエマーヒーか? 」
「正解。アイシャさんの作り方を習ってたんだ。たぶん、うまくいったと思うんだけど、味見するか? 」
 そこで、刹那もはたと気付いた。せっかく、その料理の本場に居たのに携帯食料しか口にしていなかったからだ。マリナと顔を合わせたのは深夜近い時間だったから、軽くお茶を飲んだ程度だ。
「なんで、わかった? 」
「おまえの行動なんてお見通しだ。どうせ、携帯食料で誤魔化したんだろ? せっかく、現地まで出向いたくせに、懐かしの料理ぐらい食べてくればいいのにさ。」
 帰ってくる連絡で、ニールには、刹那の行動が読み取れている。マリナ・イスマイールとの接触だけで、現地でゆっくりなんてしていないぐらい時間で解る。
「アザディスタンは、面が割れている可能性がある。」
「小さい頃の顔と今じゃ、すっかり変わってるよ、刹那。・・・・まあ、いいさ。アイシャさんは、何がいい? 」
「スコシ味見して、ニールの惣菜カシラ? レモンサワーネ。」
「了解。」
 もちろん、寺のものには通常の夜食も用意しているから、アイシャは、そちらを酒のアテに所望する。



「マリナ・イスマイールは元気? 」
 食事の支度をして一同がこたつに座ると、アイシャが刹那に尋ねる。アイシャが以前、バルトフェルトと駐屯していたのは、アザディスタンではなかったが、近い地域だ。だから、マリナ・イスマイールのことは知っていた。
「生きてた。」
「そう、よかったわネ? 刹那。」
 ガーリエマーヒーをがつがつと食べながら、刹那のほうもぶっきらぼうに返す。ボキャボラリーの少ない黒猫なので、返事があれば十分だ。料理のほうは口にあったらしく、黙って口に運んでいる。おいしいらしいので、それにはニールとアイシャが視線を合わせて微笑んだ。
「虎さんにも作るのか? アイシャさん。」
「たまに。洋風のほうが好きミタイ。ニールは、ドウ? 」
「うまいけど、たくさんは無理だな。刺激物が多すぎてさ。体調が完全に戻ったら、問題ないと思う。・・・・これ、シンは好きだから、明日にでも取りに来させよう。」
「ウフフフ・・・ソウね。あなた、まだダメだわね。暑い所ダカラ、これで体温をサゲルの。発刊作用がアル香辛料ダカラ。」
「ということは、夏のメニューだな。これから使えそうだ。」
 大人は、のんびりと酒のアテを口にして、無言の黒猫を眺めている。大きくなったな、と、アイシャも感じている。身長も延びたし、何より顔つきが大人になった。それでも、親猫の前では、まだまだ甘ったれな子猫だ。皿を空にすると、無言でおかわりを催促する。
「同じでいいのか? 米も盛るか? 」
「米。」
「はいはい。」
 単語しか口にしていないが、それで通じる相手だから問題はない。新しい皿を配給されると、またガツガツと食べるほうに集中している。
「週末、動物園ツアーらしいけど、アイシャさんは、どうする? 」
「うーん、まだ、未定。ラボの人手がタリテれば参加スルわ。」
「忙しいのか? ラボは。」
「ノー。ダコスタがプラントに出張ナノ。」
 基本、ラボは虎と鷹、ハイネ、ダコスタがローテーションで管理している。ひとり、欠けると、そこにアイシャが入ることになっているのだ。それに、ニールが動物園に行くとなると、ハイネは体調管理でニールのほうについていくことが多いから、人員がさらに減る。
「俺、管制室なら手伝うぜ? 」
「出禁の人は無理ネ? ニール。」
「まだ、続いてるのか? それ。」
「永久出禁って、アンディは言ってたワヨ? それに、三蔵サンが怒るデショ? 」
 来月辺りに、組織からMSを預かることになっているので、ニールはラボには出入りさせないことに決まっている。ニールの括りは人外組だ。だから、今後、そちらのことはさせないつもりで、みな、考えている。何かしらのイベントをやるなら、別荘に滞在させるが、それ以外は別荘も基本、出禁の方向だ。
「・・・まあ、そうなんだけどさ。手伝えることがあったら言ってくれよ? 俺、一番暇にしてんだから。」
「あんたは療養しろっっ。まだ、完全じゃないだろ? 」
 無言でメシを食っていた黒猫が、厳しく注意する。自分のおかんは、体調についての自覚がないので、そこいらは厳しく注意しなければならない。それに、デュナメスなんて見せたら、また泣くだろうから、それはやらせるつもりはない。
「わかってるよ。そろそろ、ウォーキングあたりから始めるさ。・・・・腹筋とか背筋も鍛えないと、全然でさ。」
 坊主と組み手をすると、そこいらが、よくわかる。以前だったら、跳ね返せていたものが、ダイレクトに自分が吹っ飛んでいるからだ。筋肉で耐えられた衝撃が流せないし、ちょっと動けば息が上がる。かなり情けない状態だ。
「当たり前だ。ウォーキングなら付き合ってやる。」
「はいはい、ありがとさん、刹那。・・・お姫さんは喜んでくれただろ? あっちは、どうだった? 」
 腹がくちくなったのを見計らって、ニールも成果について尋ねる。刹那の生国は、アザディスタンに吸収されているが、その土地は残っている。人も戻っているだろう。
「マリナは笑っていた。喜んでいたのかはわからないが。クルジスは、まだ人は居ないらしい。かなり激しくやられているので、クルジスの人間は戻れないそうだ。・・・・アザディスタン自体が、まだまだ復興途中で吸収した地域までは手が廻らないらしい。」
 ニールは知らないが、アザディスタンもクルジスも例の赤毛が完膚なきまでに破壊してくれたので、なかなか復興も時間がかかる。細々とした援助を受けて、アザディスタンは復興しているので、周囲まではマリナも力が及ばない、と、謝っていた。家族が出来た、と、刹那が言ったら、「それはよかった。何よりのことです。」 と、マリナは手を叩かんばかりに微笑んで何度も頷いた。戦いではないものを刹那が手にしたことが何よりだと思っているのだそうだ。
「そうか・・・結構、大変なことになってるんだなあ。落ち着いたら行ってみたいと思ってたんだけど。」
作品名:こらぼでほすと 花見5 作家名:篠義