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 臨也は胸が踊る、鼓動が高なる、動悸が早くなる。
(あぁ、排除したい。いっそ全ての非『人間』が、目の前の彼に集約すればいいのに…!)
 そうすれば一網打尽、此の世は大好きな『人間』だけになり、臨也は全人類を一括して愛する事が出来るのだ。それは臨也の求める、恍惚の理想卿だった。
 再びかっかと上気してきた熱い躯と心を持て余して、臨也はにっこりと微笑み、それから、
「さあね、どうだかなあ。でも君の事は邪魔だから、やっぱり俺が殺してあげるよ」
 返答すると、ビルの屋上フェンスの手摺に片手で掴まり、高揚した足取りで綱渡りのように歩み始めた。
 ──どうにもこうにもデンジャラスな境界線が好きな質らしい。今度は鼻唄まで歌い出しそうな気配だ。
 そのままビルの端まで歩み寄ると臨也は、ひょいッとフェンスの柵を片手で飛び越え、安全圏へと入り込む。浮き足立った着地をすると臨也はもう一度、静雄の居る地上を覗き、大きな期待値に比例した朗らかな声を静雄に向けて突き付けた。
「どちらにしろ、今の中途半端な君には『平和島静雄』なんて、ヒーローみたいな格好良い名前は似合わない…そうだな、まだまだ未熟なんだから、『シズちゃん』で良いや」
「…何だ、そりゃあ! 撤回しろッ!」
 手前やっぱり今直ぐ殺すから、其処で大人しく待機してやがれ!──と、激情の瞬間湯沸かし器で脳内沸騰して喚く静雄を、完全無視した佳い気な態度の臨也は、
「じゃあシズちゃん、また遊ぼうね。君が進化、したらだけど」
 掌をひらひら蝶々のように踊らせて含み笑いを見せてから、くるりと背を向けて体勢を翻し、今度こそ本当に姿を眩ませてしまった。
 歯軋りして今は見送るしかなかった静雄は、ふう、と一旦深呼吸してから頭をぐしゃりと掻き毟る。仕方なく目の前の壁面の穴ぼこを臨也の頭蓋骨に見立てて、どうにかこの場は怒りを遣り過ごそうと睨み付けながら静雄は、

「そんなに【嬉しげ】にするんじゃねえよ、馬鹿…ノミ蟲野郎が」

 たった今見た、反吐の出る臨也の活き活きした表情を思い浮かべて、蟀谷をヒクリと引き攣らせ。
 静雄もまた負けない位にドス黒い狂喜と嫌悪の笑顔を、しっかりと地上で満面に花咲かせたのだった。