美獣と女
*
例えて言うなら獣のような荒々しさと強さを持っていながら、触れることをためらわせるような冷たい気品を備えたひと。
まさに今神話の中の戦神が降り立った、と錯覚させるような、息の止まるほどの美しさを相手にまざまざと見せ付ける。
そうして相手の心を一瞬で捕らえたあとは、欠片の慈悲を抱くこともなくその命を奪う。
事切れる瞬間、その相手は血を湛えたような深紅にぎらつく瞳で射抜くように見つめられているだろう。
激しい戦いの間に振り乱され、零れ出た銀色の髪の輝きに意識を吸い寄せられているだろう。
氷のように冷たい笑顔の下で熱く滾る狂気を感じとり、無意識のうちに身を震わせ、そして――最上の「死」を迎える。
名もわからないような敵兵の一に対して、この上ない羨望を覚えていた。
かのひとの美しい体の内に込められた狂気を一身に浴びることのできるその瞬間を羨む。
この世から自我が消滅する最期に美を焼き付けられる瞼の裏に妬心を抱く。
そうして無残に引き裂かれた後顧みられる事の無いまま冷えていく骸を踏み潰し、勢い衰えることなく突き進むひとの後を追っていくのだ。
例えて言うなら獣のような荒々しさと強さを持っていながら、触れることをためらわせるような冷たい気品を備えたひと。
まさに今神話の中の戦神が降り立った、と錯覚させるような、息の止まるほどの美しさを相手にまざまざと見せ付ける。
そうして相手の心を一瞬で捕らえたあとは、欠片の慈悲を抱くこともなくその命を奪う。
事切れる瞬間、その相手は血を湛えたような深紅にぎらつく瞳で射抜くように見つめられているだろう。
激しい戦いの間に振り乱され、零れ出た銀色の髪の輝きに意識を吸い寄せられているだろう。
氷のように冷たい笑顔の下で熱く滾る狂気を感じとり、無意識のうちに身を震わせ、そして――最上の「死」を迎える。
名もわからないような敵兵の一に対して、この上ない羨望を覚えていた。
かのひとの美しい体の内に込められた狂気を一身に浴びることのできるその瞬間を羨む。
この世から自我が消滅する最期に美を焼き付けられる瞼の裏に妬心を抱く。
そうして無残に引き裂かれた後顧みられる事の無いまま冷えていく骸を踏み潰し、勢い衰えることなく突き進むひとの後を追っていくのだ。