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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 14

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 ネティスはしばらくうなだれていた。そしてその後顔を上げ、マーティンへと目を向けた。
「先生、私の命は保って後半年、と仰っていましたね?」
 ネティスは訊ねた。
「うむ、ただしそのためには絶対安静が必要じゃ。外を歩くことすら許されん。ただ寝て死を待つ、ということになろうな…」
 ネティスは不意に笑みを見せた。
「では、私の余命は残りふた月ですわね」
 ネティスの意図していることはマーティンにはすぐに分かった。
 ピカードの帰りをただひたすらに祈り続けるのである。そして、いつか彼が帰ってきた時には病床ではなく、普段の生活に生きた母として迎えるつもりであった。
「外を歩き回っていては、二ヶ月も保たぬやもしれんぞ。それでも良いのか、ネティス?」
 ネティスは穏やかな笑みを向け続けた。
 外界の時間で一年近くも帰らないピカードがたかだか二ヶ月で戻ってくるなどとは途方もない事だった。
 半ば諦念があっての決断なのかもしれない。ピカードはもう帰らない、既にこの世の者ではなくなっているのかもしれないという諦めである。いつまでもずるずると生き長らえる事などネティスには堪えられなかったのかもしれない。
 しかし、心の奥底には息子の無事を願い、会う場は天界ではなく、この世界であることを望んでいる事もまた事実だった。
 早くに死に、天界にてピカードに会うか、それとも死ぬ前に再び彼がレムリアへ帰って来るのを迎えるのか。
 どちらの決心から自らの命を縮める選択を、ネティスはしたのか。誰も知る由もなかった。
 ネティスの最期の日は刻々と近付いていった。
 卓の上に銀の匙がカラン、と音を立てて転がった。
「ごほ…、ごほっ!」
「姉さん!」
 ネティスは胸を抑え激しく咳き込んだ。向かいに座っていたウィズルはネティスの所へ回り、背中をさする。
「ごほ…、ごめんなさい、ウィズル。びっくりさせたわね…、ごほ…、ちょっと咽せただけだから…」
「姉さん…」
 ネティスは言うが、当然嘘であった。食べ物が喉を通った瞬間、急に激しい動悸を感じたのだ。
 最早ろくに食事もできなくなり始めていた。
 それからというもの、ネティスは食事の度に二口、三口で匙を置くようになった。
「姉さん、もういいのか?」
 その度ウィズルは言った。
「うん、もうあまり食べなくてもお腹が空かなくなったわ。ふふ…、そのぶんの食費が浮いてよかったわね、ウィズル」
 ネティスは不安そうに自分を見るウィズルに笑いかけた。しかし、そんな笑顔が弟を楽にするはずはなかった。日に日にやせ細っていく姉を見ていると、えもいわれぬ不安に、ウィズルは押しつぶされていた。
 治療を止めて一ヶ月が経った。その間でのネティスの衰弱は激しいものだった。
 立って少し歩くだけで激しい動悸が彼女を襲う。最期の日まで普通の人と変わらない生活をしていこう、そう決意した彼女だったが、もう普通の生活などできる体ではなくなってしまった。
 一日のほとんどを寝て過ごす事を強いられていた。元来細かった腕はさらに細くなり、骨と皮だけの腕になってしまった。頬もすっかりと痩けてしまい、まるで老婆のようになってしまった。
 それは、ある日の昼下がりだった。一ヶ月と半分が過ぎた頃である。
「ウィズル…」
 弱々しい声で弟を呼んだ。
「何だい、姉さん?水が飲みたいのか」
「違うよ、お祈りしに行きたいの…」
「また姉さんは…、もうそんな事できる体じゃないことは分かってるだろう!?」
 もう人の手を借りなければ起き上がる事すらできなくなっていた。あの原までたどりつけるはずもなかった。
「ウィズル、私はたぶん…、いえ、きっとね。もうすぐ死ぬわ…」
「そうだ、姉さんは死ぬんだ!姉さんが勝手に治療を止めるって言い出したんだからな!だからマーティン先生の言うとおりにしていれば、半年は…生きられたのに…」
 ウィズルの怒鳴り声は次第に涙声になった。
「ウィズル…、どうか泣かないで。私はあなたにとても感謝してるわ…。私のわがままに付き合ってくれて、今日まで、こんな何もできなくなった私の看病してくれて…」
 ネティスはベッドから体を持ち上げた。ウィズルはその背に手をあてがう。
「死にゆく人間の戯れ言だと思って聞いて…。私は、怖かったの…。もしもピカードが、あの子が帰ってきたとして…、私のこの姿を見てあの子がどんな顔をするだろう…ってね…」
「だから早く死ぬ道を選んだってのか!?姉さん!もっと俺の気持ちも考えてくれよ…、どんな思いであんたと一緒にいたのかをなぁ!」
 ウィズルは流れる涙を拭うこともせず、一心に胸の内を伝えた。姉が具合の悪そうにしているとき、それこそ一回咳をする度に、ウィズルは怖く、恐ろしく、不安でたまらなかった。この約二ヶ月で心の休まる時などほんのわずかすらなかった。
 ネティスはウィズルの叫びに答えず話し続けた。
「私…、思うの…。ピカードが近いうちに帰ってくるんじゃないかってね…。それも…、物凄い役目を抱えてね…。あの子のするべき役目の邪魔になっちゃいけない、だから私は早くにいなくならなきゃならないのよ…」
 まさに戯れ言だった。生死さえも分からないピカードがどうしてそのような帰り方をしてくるように思えるのか。
「ウィズル…、最後のお願いよ…。聞いてくれる…」
 ネティスはベッドの端に掛けてある愛用のストールを羽織った。
「私を、あの海の見える原っぱまで連れて…!」
 突然、ネティスは目をかっ、と見開き、片手で首を掴み空気を求めるように激しく全身を痙攣させた。
「おい!どうしたんだよ!?姉さん!姉さん!」
 ネティスは尚も全身を痙攣させていた。
      ※※※
 街中の病院は大騒ぎになっていた。
『プライウェル!』
『プライウェル!』
 ベッドの上に横たわったネティスへと医術師達が治癒のエナジーを一斉に放っていた。
「くそ、駄目か!?」
「諦めるな!次行くぞ!」
『アーネスト・プライ!』
 特大の治癒エナジーがネティスに放たれた。しかし、ネティスの呼吸はやや復活したものの目は覚まさない。
「くそ、だめだ。今ので俺のエナジーはなくなった。お前はどうだ!?」
「私も、もう…」
「くそ!姉さん、目を開けろ!一緒にあの原っぱに行くんだろ!?生きて息子に、ピカードに会うんじゃなかったのか!?なあ、姉さん!」
 錯乱したウィズルはネティスを激しく揺り動かした。
「だめです!離れてください!」
「放せ、ちきしょう!放しやがれ!」
 ウィズルは止めに入った女性医術師を振り払った。
「姉さん!」
「落ち着きなさい!ウィズル!」
 奥の方からマーティンが姿を現した。
「院長!」
「準備はできたのですか!?」
「ああ、しっかりと準備は整った。私の合図と共に私に君達の有りっ丈のエナジーを放て!」
 マーティンはネティスの横たわるベッドのそばに歩み寄った。
「ウィズル、これは病人を蘇生させる最後の手段だ。私達も全力を尽くすが、これがだめならもう手がない!どうか一緒に祈り、君のエナジーを私に送ってくれ!」
「わ、分かりましたマーティン先生!」