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タイムドライバー

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マクロス7 腐向け 二次小説
 20年後のお話です。
バサラを救うために過去に戻るガムリン。
ややSFチック。




~1~


誰よりも強いと思っていた彼の心は、その実、ガラス玉のように
脆く、ひび割れやすかった。
違う。あまりにも優しく純粋だったのだ。
その心のひびに絡みついた見えない糸が、彼を引き裂こうとしていた。


2066

 日々の鍛練を怠らない身体は、若さだけでは決して作れない、屈強さを備えていた。
黒いパイロットスーツの上からでもわかる、鍛えられた肉体は、
自己への厳しさを表しているようだった。
「じゃぁ、行ってくるからな・・・・」
低く穏やかな声に決意を込めて、ガムリンはバサラに声をかけた。
病室のベッドに横たわる彼に、声が届いているかは判らなかった。
歳を重ねても尚、その寝顔はどこか幼げな印象を残している。
口元に僅かに刻まれた皺はえくぼを思わせ、眠りながらも
微笑んでいるようだった。
その穏やかさは、ガムリンを暖かく和ませると同時に、
切なく胸を締め付けた。
頬に、髪に触れたくて伸ばした指先は温もりを感じられずに
虚しく空を掻いた。
目の前のバサラには実体がなかった。
まるで立体映像のように、見えてはいるが触れることができないのだ。
ガムリンはバサラの上にかざした手を見つめると、爪が食い込むほど拳を握りしめた。



二週間ほど遡る。
文庫本を開きながら、聴くとはなしに、ギターを鳴らす
バサラの歌を聴いていた。
ふいに歌が途切れたが、ガムリンは気に掛けなかった。
歌詞か、コードを忘れたのだろう。
若い頃のバサラなら、勢いでデタラメに歌っていたが、近頃は
柄にもなく考え込んだりしている。
四十を過ぎた男に可愛いも無いものだが、
小首を傾げるバサラの姿に、ガムリンの胸は甘くくすぐられた。
いつまでもぼんやりしているバサラを不思議に思い、声をかけた。
「どうした?」
肩に手を置くとバサラの身体はずるりと、ガムリンの胸の中に
崩れ落ちてきた。
「バサラ!」
呼びかけたが反応がない。
腕の中に収まる身体はまるで、魂が抜けてしまったように、軽く感じられた。

その日からバサラは病院のベッドの上にいた。
ガムリンもほとんど眠らずにずっと、付き添っていた。
意識が無い事の他には、どこにも異常は見られなかった。
心拍、脳波、あらゆる身体機能を確認するために体中に
幾つもの医療器機を繋がれている。
それらの器機が一切の反応を示さなくなった。
それと同時にバサラの姿から徐々に色彩が失われはじめ、実体として掴めなく
なったのだ。
幽霊か霊体のように、触れることが出来ないバサラの身体に、もはや、
器機類は装着できなかった。
日を追うごとにバサラの姿は薄くなっていく。
医師たちは治療はおろか、原因さえも掴めなかった。
ガムリンはこのまま、バサラが消えてしまうのかと強い不安に駆られた。
いや、不安どころではない。絶望だった。
バサラのいない世界で、自分は一秒だって生きてはいられないだろう。
いつだって生気に溢れ、存在を強く感じさせるバサラが、今は、
無機質な立体映像のようにガムリンの目に映る。
見えているのに、存在を感じられないことが、胸を締め付けた。
「お前はいま、何を感じている?」
意識のないバサラは、その深層心理で何を思っているのだろうか?
無茶はしても、生きることを簡単に放棄する男ではない。
消えていく運命に抗おうとしているのだろうか?
ならば、自分も出来る限りの力を尽くさねばならない。
ただ、指をくわえてバサラが消えていくのを見ている訳にはいかないのだ。
頼みの綱はあの男しかいない。
ガムリンはゆっくりと立ち上がると後ろ髪を引かれながら、病室を後にした。


「ガムリン!どうやら、まだ、間に合ったようだな」
小太りの範疇をいつの間にか大きく越えた、メガネの男に声を掛けられた。
廊下で鉢合わせた男こそ、頼みの綱、Dr.千葉だった。
「状況は、ここの医師たちから聞いている。いいから、私の話を聴いてくれ」
千葉は空室になっている病室にガムリンを連れ込むと、中から鍵を掛けた。
二人部屋の病室のベッドに千葉とガムリンは向かいあわせて座った。
「ガムリン、このままではバサラ君はこの世界から消滅してしまうことに
なる。状況からして、あと二~三日といったところだろう」
一瞬言葉をなくしたガムリンは、千葉の胸ぐらを掴むと、怒りにも似た感情に突き動かされ
叫んだ。
「どうにかならないのか!なんとかしろ!千葉ぁ!」
ワイシャツの襟を捕まれた千葉は、苦しさにせき込みながら、ガムリンの手を解こうともがいた。
ゆるみ始めたガムリンの腕は力を失うと、そのまま千葉にすがりついた。
「なんとか・・・ならない・・のか・・?」
泣きそうに顔を歪ませ、悲痛に絞り出された声に、千葉は
ガムリンの肩に手を掛けるとベッドに座り直させた。
「方法が無いわけではないんだよ。」
子供に言い聞かせるように、ゆっくりと千葉は語り始めた。
「バサラ君は今、過去に引っ張られているんだ。」
予想外の千葉の言葉に、今は耳を傾けるしかなかった。
「ギギルというプロトデビルンが消滅した時に、ブラックホールが生じたことを覚えているか?」
「ああ、発見したラクスという惑星ごと飲み込んでしまった」
「そうだ、あの時のブラックホールにバサラ君の魂が引っ張られているんだ」
「どうゆうことだ?」
ガムリンは首を傾げた。
20年も前のことだ。その時点でブラックホールに引き込まれるなら
理解も出来る。だが、今になってどんな関わりが有るというのだ?
「ギギルが消滅する瞬間、バサラ君とギギルの心が共鳴したんだ。
同調と言ったほうがいいのかもしれない。その想いがバサラ君を、あの時のブラックホールに引き込もうとしているんだ」
ガムリンは当時の記憶を手繰るように病室の白い壁を見つめた。
歌い始めたギギル。
シビルを一途に想いながら崩壊していくその姿はガムリンの
胸にせまる物があった。
バサラとギギル、そしてシビルの間に通い合う物があったことは
想像できた。
自分ですら心を動かされたあの瞬間に、バサラが心を砕かなかったはずはない。
ギギルを思いやるバサラの心に、深くシビルの身を案じるギギルの心が絡み付いたのだろうか。
「ギギルの心とバサラ君の心が見えない糸で繋がれてしまったんだ。
その糸にバサラ君の魂は引っ張られ、少しずつ、その存在を失いつつあるんだ」
それは、ほつれだしたセーターの糸が少しずつ引っ張り出され、いつしかその形をなくしていくかのようだった。
おそらく、バサラ自信も気づいていなかったのだろう。
20年という歳月に少しずつ、少しずつ、
まるで病が進行するようにブラックホールに引き込まれていた。
「どうしたらいい?どうしたら、バサラを救える?」
詰め寄るガムリンに千葉は大きくうなずいた。
「簡単だ。その糸を断ち切ってくればいい。」
「どういうことだ?」
作品名:タイムドライバー 作家名:小毬