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なずなのかんむり

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 今日のおやつのカップケーキを、カナン様はいつにないスピードで召し上がられた。
 お身体に悪いのでもっと落ち着いて召し上がってくださいと申し上げても、お口をもぐもぐ動かされながらわかったとでもおっしゃるように手を振られるばかりで、相変わらず俺の注意など右から左へ流される。食べ物を口に含んだままお返事なさるようなことがないのはいいが、何の効果もなく無言で流されるのはむなしい。同時に、このご様子に思い出すものもあって俺は密かに警戒した。いくらカナン様でも俺の目の前で堂々と脱走を試みられたことはないがこの召し上がり方はまるで数か月前の……あー。
 嫌な予感でいっぱいの俺をよそに、カナン様は流し込むようにぐいっとお茶をあおられると、「ごちそうさまっ」と立ち上がった。これはすぐにでも行動なさる気だ。
「カナン様、どちらへ?」
「図書室だ。だから僕ひとりでも――」
 予想外の返答に少し驚く。カナン様はお言葉を途切れさせて、俺の顔の上あたりで数秒視線を留め置かれた。それから、ひとりごとのようにうん、と頷かれる。
「やっぱりお前も付き合え。行くぞ」
「はぁ……」
 図書室に出向かれる時は大抵、カナン様おひとりのことが多い。不思議に思いはしたが、今までお供したことがなかったわけでもないので素直に従った。カナン様はご満足そうにもう一度大きく頷かれると、俺を急かすようにしてお部屋を後にされた。
 四六時中一緒にいるように思われているフシはあるが、城内にいる時はその限りではない。前述したようにカナン様おひとりで図書室などで過ごされることもあるし、俺は俺で、カナン様お付きの従者というだけの立場ではないから、別の仕事もある。図書室に行く姉上のお部屋に伺うなどとおっしゃっておいて、城下へ抜け出しておいでになることも少なくはないので、どうしてもお傍にいる時間は多いが。どうもカナン様は、俺が血相を変えて追いかけてくるまでがお忍びの一環と考えていらっしゃるのではないかと思う。現に俺が休暇でお傍を下がっている時などは、城内で(比較的)大人しく過ごしておいでらしい。理不尽だ。
 そういうわけで、カナン様おひとりで図書室にと言いだされた時はまたか!? と身構えたが、今回は本当に図書室にご用事のようだ。顔馴染みどころか本当にお世話になっている(カナン様お好みの娯楽小説の通販窓口になっていただいたりで)図書室の管理人さんにもご挨拶して、完全にやる気でいらっしゃる。何に対してのやる気なのかは不明だが。
「カナン様、何かお探しなんですか?」
「うむ、考古学をな。少し勉強してみようかと。ホラ、今朝方、手紙が届いただろう。ヘルムトからだったんだ」
「ああ、あれが……」
 確かにご朝食を済まされた後、手紙を受け取ってらした。お勉強が始まるまでの自由時間に、随分熱心に読んでいらっしゃるようだったから、また妙な通販とかのものでないことを祈りながらお傍を辞したんだった。あれはジョーンズさんからのものだったのか。ということは……
「今はヒライナガオの遺跡群を絶賛調査中らしいぞ。いいなぁ。僕ももう一度じっくり見てみたかった」
 ああやっぱり。しっかり刺激されてしまっている。戻ってからはリグナム様のご厚意の手前、真面目なご様子でいらしたんだが、この分ではいつ元通りになるか。また野生のにゃんにゃんより厄介なところに隠れたりなさるこの方をお探し申し上げる日々が来るのか。いやカナン様を野良にゃんにゃんとの引き合いに出したりしたら失礼なんだがしかし。
「どうしたセレスト。急におかゆフィーバーに囲まれたみたいな途方に暮れた顔になってるぞ」
「どんな顔ですかそれは。何でもありません、あまりお気になさらないでください」
「ん、そうか」
 呪いの指輪も無事外れて、着々とレベルを積み上げていっている今、おかゆフィーバーに囲まれた方がよっぽど対処しやすいかも知れない。俺の指輪が外れたことに対して「これから僕は下がっていく一方だぞ。お前ばっかりズルくないか」なんて謂れのない文句をぶつけてくるあたり、カナン様が全く反省してくださっていないのは明白なことだし。あんなことがあってもカナン様は相変わらずカナン様で、いっそご立派だとすら感じる。
 エルダーさんについて、カナン様は誰にも口外なさらなかった。
 カナン様は本当に、時折、過ぎると感じてしまうほど探究心旺盛でいらっしゃるので、図書室の移動範囲も広い。探索したい範囲が広い時は荷物持ちとして俺もお供するので、図書室のどのあたりにどんな分野の本が固まっているかは知っているが、今回管理人さんに聞いて探索したのはこれまであまり近付いたことがないあたりだった。
「ここも国民に開放したらいいのに。このままでは読む人間が少なすぎて宝の持ち腐れだぞ」
 本を物色されている間、カナン様がもっともらしいことをおっしゃる。しかしその真意は言わずと知れた。多分、絶大な効力を持つと信じてらっしゃる眼鏡なり何なりで変装して、一般の方と交流したりあわよくば冒険者とお近づきになりたいとか、そういうところだろう。とんでもない。
「それなら街の図書館に資料貸出を提案すればいいだけの話です。ここはあくまでも王城なんですから、そう簡単に部外者を入れるわけにはいかないんですよ」
 ……盗賊団には簡単に出入りされて、しかも王族さえ知らないような隠し通路をいくつも発見されたが。とりあえず、発見した分だけは外からは入れないように塞がせたけれども。
「むう。娯楽小説にはよく、24時間王との謁見が叶うばかりか城のタンスを全て引っくり返しても何も言われないような国が出てくるのになあ」
「お話はお話です」
 そんな国実在したら、困る。そこの従者は胃がいくつあっても、次々に穴が空いてしまって追いつかないだろう。
「まあ僕も、いくら勇者だからと言って、自由にさせすぎだろうとは思っていたが。セレスト、この本持っていてくれ」
「はい」
 カナン様の腕には余るだろう本を立て続けに三冊ほど手渡される。まだ重量としては十分許容範囲だ。ただ、カナン様が微妙に背の届かない棚にまで手を伸ばしてらっしゃるのが見ていてハラハラする。それこそ、俺に申しつけてくださればいいのに。届きそうで届かない微妙さが、逆にこの方の中の何かに火を付けてしまったんだろうか。
「これでよろしいですか」
 渡された本をかさばりながらも片手に抱え、カナン様が取ろうとなさっていたらしい一冊を抜き出すと、目に見えて眉を顰められる。
「もう少しで届いたぞ」
「届いた瞬間に後ろに倒れられたらとか、本が手から離れて直撃になったらと想像すると気が気でないので、勘弁してください」
「お前、僕がそんなベタなオチを披露すると思うのか」
「また妙な言葉を仕入れられて……そうではなくて、万が一ということもあるでしょう」
 まだ納得なさっていないようなご様子だったが、俺は何とか話題を逸らす方向に持っていこうとした。
「ジョーンズさんからのお手紙がきっかけなのはわかりましたが。どうして考古学を?」
「うむ、それはだな……」
作品名:なずなのかんむり 作家名:NOAKI