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魔王と妃と天界と・2

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教会の朝はそれなりに早い。
 フロンの教えは、早寝早起き、健康第一!!である。が、魔界の住人の性質としては健全すぎて、あまり浸透してはいない。
 それでもフロンを先生として慕う子供達が住む教会だ。面倒と思いながらも、各々フロンの教えにはできるだけ従っている。
 中には己の欲望優先で惰眠を貪る連中もいるが、あまり遅くなると朝食にありつけなくなる為、決められた朝食の時間には殆どの悪魔達が揃っていた。
 勿論朝食の時間を決めたのはフロンだ。集団生活なのだから皆の事も考えなきゃダメですよ、との事。
 食事の用意と配膳をするのは主にプリニー達だが、手伝い位は子供達もしている。その大半が自分の取り分を多くする為の様だが。
 護衛として働く悪魔達と出掛け、どこぞで狩った動物やらを食材として提供したりもする。
 あまりにエキセントリックな食材を、使え!!と押し付けられた調理係のプリニーは白目で恐ろしい子!!なんて言いつつえらいもんを出して教会全体を阿鼻叫喚の地獄絵図にし、やり遂げた顔で汗を拭い、様子見に来たエトナに蹴り飛ばされて爆発したりもしたが、それも日常の範疇である。
 因みにそれは昼食の事で、一緒に食事をしていたフロンもその一員になっていたが、食材提供をした子供に大丈夫です、結果はどうあれその気持ちは尊いものです…!!と言い残し気を失った。
 その子供の先生を慕う気持ちは増したが、ちょっぴりトラウマにもなっていた。教育って難しい。
 ともあれ、朝食の時間が決まっている様に、朝食を終える時間も凡そではあるが、一応決まっている。
 その後は先生が来るまで自由行動だ。来ない日はそのまま自由行動なので、それぞれ思い思いの事をして過ごしている。
 決められた仕事や役目のある悪魔達も一日中働いている訳ではないので、結構好き勝手に行動していた。
 だが、今日は早い内からフロンの姿が見えた。
 それが疎ましい訳ではないが、随分と珍しい事だ。悪魔達も首を傾げつつ、
「もう妃様が来てるな。何かあるのか?」
「朝飯の後すぐだもんなー。ま、ガキ共は喜んでたが」
「ああ、客が来るんだとよ。例の悪人面天使様だ」
「マジか!!」
 ブルカノの事だ。
 顔面的には大差無い悪魔達にも悪人面呼ばわりである。
 ここいらの悪魔達にとって、天使と言えばまずフロンが思い浮かぶのだし、一般的なイメージ的にも遠すぎる。仕方無いと言えば仕方無い。
「あぁ、あのオッサンかー」
「存在感はすげーよな。初見だと羽根白いの見えねー程度には悪人面だぜ?」
「俺、まだ見てねえんだよなぁ……」
「もう何回か来てんだよな?」
「魔界嫌いの悪魔嫌いだから、ガキ共で慣れさせようってハラらしいぜ?大天使の発案だとさ」
「あー、天界トップの」
「あのにーちゃんはもっと来てるよな。菓子折り持って挨拶来た時はビビったぜ」
「陛下と違って物腰柔らかだよな。……なんか底知れねぇけど」
 教会で働く悪魔達は子供達と違って街に家がある者が多い為、ブルカノの事を知らない者もまだ多かった。
 その上子供達以外の悪魔との接触は極力抑えているのだから、それも当然である。街を抜けて来たのも初回のみだったので、知名度は天界でそれなりに交流しているラハールとは比ぶべくもない。
 ……ラミントンはそこそこ知られているのだが。
 ブルカノを連れて来てからというもの、ちょくちょく来ているラミントンである。
 訪問の形をとっている事もあれば、お忍びですよー、などと言いつつ友人であるバイアスと談笑してたり教会で子供達と戯れてたり。
 以前から魔界に来てはいたものの、行動範囲は格段に広まっている現在である。
 それでいいのか天界トップ。
 突っ込みは多々あるものの、害がある訳でもないし手土産持参が常だしで、結構歓迎されていたりする。
 何よりフロンの尊敬する方でもあるのだし、と邪険にする者はあまりいない。
 この教会は基本的にフロンの兵隊と、フロンを先生と慕う者達の集まる場所なのだから、当たり前だ。
 しかしブルカノは魔界嫌いの悪魔嫌いだ。大天使も同行しているとはいえ、どうなるか。
「………まぁ、なるようになるわな」
「だな」
 ブルカノと接した事のある数少ない悪魔達はそう断じた。
「軽いな、おい」
「そりゃあ攻撃してきたりはしねーだろうが……」
 知らなければ、不安を感じるのも心配するのも仕方無い事だろう。だが、知る者は簡潔に返すのみだ。
「見りゃあ解る」
「マデラスとの遣り取りとかな」
 ……既にブルカノの立ち位置は、決まっているのかもしれなかった。



「では少し出てくるぞ」
「行ってらっしゃいっスー」
「遅くなっても構わないっスよー」
「これで堂々とサボれるっス!!」
「それを口に出すのは頭が悪すぎると思わんか?」
「じょ、冗談っスよー!!」
 掲げた手に魔力を溜めるラハールに慌てるプリニー達に、ふん、と鼻を鳴らし。
「まぁよい。では、行ってくる」
 今日の分の仕事を終え、昼食を軽く済ませた後に足を向けるのは教会だ。
「全く、エトナはもう行っておるのか……。あいつは腹心としての自覚があるのか?」
 そうは言いながらも、それがエトナなのだから仕方無い。
 愚痴の代わりに溜息を一つ零して、マントを翻し、空へ舞い上がる。
 歩く事は嫌いじゃない。面倒だが、街中を歩き、そこに暮らす己の部下共の顔を見るのもそれはそれで良いものだ。
 だが、今回はそんな事をしている暇も無い。
 一気に移動し、教会の前に降り立つと、警護中なのだろう、いつぞやの兄弟悪魔の片割れがいた。
「邪魔するぞ」
「お、陛下じゃねえか」
 ラハールを倒そうとしたものの、弟に使われていた事を知り、魔王の力を認め。結果的にラハールの下につき、教会の警護と管理を任される様になった兄悪魔である。
「見張りか?……貴様は真面目だな」
 プリニー共にも見習ってほしいものだ、と零すラハールに、兄悪魔は苦笑する。
「オレは頭が悪いからな。任せられた仕事くらいはこなさねーと、格好がつかんのさ」
 実際、弟の方が役に立つ。
 そう言う兄悪魔に、ほう?とラハール。
「しかし、戦闘なら貴様の領分であろう」
「まぁな。だが、オレは結局力任せでしか戦えん。あいつはツメが甘いが一応頭は回るし、雷系の魔法に長けているしな…。威力は並だし、派手さには欠けるが、術の制御が得意なんだ。……オレがあいつに倒されたのもそれの所為だからな」
 兄悪魔が苦々しく溜息を吐く。
「あの時か。いきなりぶっ倒れた様に見えたが……」
「アレは、心臓辺りに一点に集約させた雷をピンポイントで叩き込まれたんだ」
 ラハールと対峙し、決着も待たずに倒された時の事だ。
「一応あいつとは兄弟だからな。耐性があったんで死にはしなかったが……」
 少なくとも、弟としては殺すつもりだったのだろう。こちらが声を発した時に驚いていたのだから。
「……タフだな、貴様」
 感心した様にラハール。
「……アンタが言うかね」
 兄悪魔はその台詞に苦笑。
 こちらが揃えた悪魔達を無傷で、しかも相手を殺さない程度に加減してぶっ倒しておいて、と。
「オレ様は魔王だからな。貴様程度に負けてどうする」
「…ごもっともだ」
作品名:魔王と妃と天界と・2 作家名:柳野 雫