ロウきゅーぶ!~硯谷女学園サイド~prologue
全国大会準決勝、キャプテン・センターの島田正臣率いる大正中は、3連覇を狙う優勝候補の開盛中とぶつかった。
大会№1センターと名高い島田、絶対的エース白川流を擁した大正中だったが、司令塔であるガードの神代が負傷欠場。第二Q終了時で56対30とリードされていた。そこまで司令塔の代役を務めてきた流は、第3Qから本来のポジションであるスモールフォワードにつき、またたく間に得点を決めて最終Q残り35秒で83対84と逆転する。
しかしラスト10秒で開盛中のエース・柏崎に3ポイントを決められ86対84・・・絶体絶命のピンチだった。
開盛はもちろんオールコートで必死のディフェンス。
それに対し大正は島田が機転を利かせる。
「早く上がれ!!」
その声に開盛メンバーは釣られ、すぐそばにボールをもらいにいった流をフリーにしてしまう。
流は、たった2歩でダブルチームをかいくぐり、センターラインを一気に越えた。そのとき流は残り時間を見た。
(あと4秒!!)
「お兄~~!!!」
「お兄ちゃん!!!」
流の妹「白川いろは」の声とその親友の「藍田未有」の声が聞こえる。
自分も、大正メンバーにも延長を戦える余力はもうない。
勝つのなら3ポイントしかない!
そのとき流は、相手のディフェンスが3ポイントラインよりも奥にいることを確認した。
ラインギリギリまで行ってはブロックされると踏んだ流は、3ポイントラインの1メートルほど手前でトップスピードを殺し、ジャンプした。
その瞬間だった。
ブチブチブチ!!
自分の右膝がちぎれるような感覚が走った。
痛み?しびれ?よくわからない。しかし、そのときの彼にとってはそんなことはどうでもよかった。ボールは「カッ」という音とともに右手から放たれた。
1、0・・・ビィーーーー!
ボールが鋭く逆回転しながら弧を描いてる間に終了のブザーが鳴っていた。
流は着地と同時に倒れ込み、ボールはリングに「パスッ」という音とともに吸い込まれていった。
大正中は決勝進出を決め歓喜に包まれた。
そして、流にとってはこの日が中学最期のバスケとなった。
~~~~~~~~
流は、数多くのスカウトを蹴って、祖母の地元にあるバスケ部の無い高校に進学した。
これにはいくつもの理由があった。
まず一つは、全中の準決勝で怪我をした後、再起までに時間がどれだけかかるか目処がつかなかったこと。それが元で妹が極端に寂しがるようになり、なるべく傍にいてやってほしいと祖母に懇願されたこと。
そしてその為に祖母が硯谷女学園の近隣に家を建ててくれた。元々両親が海外に滞在しているというのもあって引っ越すことにそこまで抵抗がなかった。
もうひとつは、勝ちにこだわる強豪校に行くことに抵抗があったことだ。
流の夢は、名を売って渡米することだった。しかし、小学中学と強いチームにいたためか、勝ちにこだわり過ぎて「楽しむ」ということをいつしか忘れてしまっていたことにリハビリ期間に考えさせられたことがあった。
強い高校に行くことで自分のレベルは上がる。しかし、毎日のように見舞いにくる妹をみていていろいろと考えさせられていたのだった。
高校に入学した直後、祖母が家にやってきた。
「流ちゃん、お願いがあるんですけど・・・」
いろはも流も、祖母には本当によくしてもらっている。両親不在な状態で、二人だけでは不安ということでいろはを全寮制の硯谷に入学させてもらい、流は一人で実家に住んでいたが、3日に一度ホームヘルパーを入れてもらっていた。今の家だって祖母が用意してくれたものだ。いろはが寂しいときにはいつでも来れるように配慮してくれている。
「突然どうしたの?ばあちゃん」
流は少し不安げな表情の祖母に優しく声をかけると祖母は口を開いた。
「うちの初等部のバスケ部の顧問の野火止先生が急病で倒れてしまってね・・・遠くの大きな病院に入院してしまったの。それで急遽顧問の先生を置いたんだけども・・・」
「大きな病院って・・・そんなに悪いの?」
「ええ・・・大きな手術になるそうなの。復帰の目途が立たない状況なのよ・・・それで新しい顧問の先生はバスケの経験が無くってね・・・流ちゃん、あなたに臨時でコーチをやってほしいのだけれど・・・」
流はプレイヤーであって人に教えられるような人間ではない。
人には向き不向きがある。かつて流は後輩の指導をしたことがあったが、どうしても自分の求めるプレイを押し付ける形になってしまう。
「コーチって・・・それは・・・」
「他に頼れる人がいないのよ・・・出来る限りでいいからあの子たちを強くしてあげたいの・・・流ちゃん」
流は夢を諦めたわけではない。この場所に引っ越してきて自主練習は毎日欠かさずにやっている。授業を終えて走り込みやシュート練習、ウエイトトレーニングも取り入れているし、勉強の時間も考えたらコーチをしている余裕はない。
「でも・・・」
「自分の練習の時間ね・・・」
「・・・・・うん。それに硯谷は男子禁制じゃなかった?」
男子禁制の学校に男子が入ったらまずいでしょ。
祖母の願いもわかる。でも・・・・
「いろはちゃんのバスケ、見てあげたくない?」
「いろはの・・・」
そう、いろはは硯谷バスケ部に所属している。いろはの親友の未有もだ。未有は長期休みになるといろはと共に家に遊びにきてよく懐いてくれていた。その二人の指導をしてあげられる機会でもある。
「ねぇ流ちゃん、今から練習見に行ってみない?」
「だから男子禁s「それは理事長の私が許可すればいいことよ。ほら、いきましょ。」
~~~~~~
半ば強引に硯谷の体育館に連れてこられた。
バッシュの音をボールの音、女の子の声が体育館にこだましていた。
「未有!」
「おっけい!!」
自然といろはと未有に目がいった。二人でオールコートのツーメンをやっている。軽いボールタッチでパスを出しあう二人の息はピッタリのようだ。
最後に未有がレイアップを決めると、そのゴール下にいる流と祖母に二人が気付いた。
「お兄!」
「お兄ちゃん!」
二人はまるでひな鳥のように流に寄って行った。
「みんな頑張ってますね。」
祖母は微笑みながら二人に声をかけていた。二人も「理事長せんせい!」「おばあちゃん」といって笑顔を光らせていた。
流は他の子達の練習に目がいっていた。
ミニバスの女子達のレベルは話に聞いていた通り、かなりレベルが高い。強豪といわれるチームというのは本当にすごいものだ。
そしてなによりも来る途中から目にしていた設備に驚きだ。
流はこの時、ある事を思いついたのだ。
「おばあちゃん・・・」
「なぁに?」
「もし俺がコーチを引き受けたとしたら、俺のお願いも聞いてくれますか?」
「??」
流のお願いというのは、この硯谷の設備を自分の自主練に使う許可をもらうことだった。早朝、深夜の使用許可である。
祖母はその条件を快諾した。もちろん時間制限アリだが・・・
話がまとまると、祖母は顧問の先生に事を説明した。
大会№1センターと名高い島田、絶対的エース白川流を擁した大正中だったが、司令塔であるガードの神代が負傷欠場。第二Q終了時で56対30とリードされていた。そこまで司令塔の代役を務めてきた流は、第3Qから本来のポジションであるスモールフォワードにつき、またたく間に得点を決めて最終Q残り35秒で83対84と逆転する。
しかしラスト10秒で開盛中のエース・柏崎に3ポイントを決められ86対84・・・絶体絶命のピンチだった。
開盛はもちろんオールコートで必死のディフェンス。
それに対し大正は島田が機転を利かせる。
「早く上がれ!!」
その声に開盛メンバーは釣られ、すぐそばにボールをもらいにいった流をフリーにしてしまう。
流は、たった2歩でダブルチームをかいくぐり、センターラインを一気に越えた。そのとき流は残り時間を見た。
(あと4秒!!)
「お兄~~!!!」
「お兄ちゃん!!!」
流の妹「白川いろは」の声とその親友の「藍田未有」の声が聞こえる。
自分も、大正メンバーにも延長を戦える余力はもうない。
勝つのなら3ポイントしかない!
そのとき流は、相手のディフェンスが3ポイントラインよりも奥にいることを確認した。
ラインギリギリまで行ってはブロックされると踏んだ流は、3ポイントラインの1メートルほど手前でトップスピードを殺し、ジャンプした。
その瞬間だった。
ブチブチブチ!!
自分の右膝がちぎれるような感覚が走った。
痛み?しびれ?よくわからない。しかし、そのときの彼にとってはそんなことはどうでもよかった。ボールは「カッ」という音とともに右手から放たれた。
1、0・・・ビィーーーー!
ボールが鋭く逆回転しながら弧を描いてる間に終了のブザーが鳴っていた。
流は着地と同時に倒れ込み、ボールはリングに「パスッ」という音とともに吸い込まれていった。
大正中は決勝進出を決め歓喜に包まれた。
そして、流にとってはこの日が中学最期のバスケとなった。
~~~~~~~~
流は、数多くのスカウトを蹴って、祖母の地元にあるバスケ部の無い高校に進学した。
これにはいくつもの理由があった。
まず一つは、全中の準決勝で怪我をした後、再起までに時間がどれだけかかるか目処がつかなかったこと。それが元で妹が極端に寂しがるようになり、なるべく傍にいてやってほしいと祖母に懇願されたこと。
そしてその為に祖母が硯谷女学園の近隣に家を建ててくれた。元々両親が海外に滞在しているというのもあって引っ越すことにそこまで抵抗がなかった。
もうひとつは、勝ちにこだわる強豪校に行くことに抵抗があったことだ。
流の夢は、名を売って渡米することだった。しかし、小学中学と強いチームにいたためか、勝ちにこだわり過ぎて「楽しむ」ということをいつしか忘れてしまっていたことにリハビリ期間に考えさせられたことがあった。
強い高校に行くことで自分のレベルは上がる。しかし、毎日のように見舞いにくる妹をみていていろいろと考えさせられていたのだった。
高校に入学した直後、祖母が家にやってきた。
「流ちゃん、お願いがあるんですけど・・・」
いろはも流も、祖母には本当によくしてもらっている。両親不在な状態で、二人だけでは不安ということでいろはを全寮制の硯谷に入学させてもらい、流は一人で実家に住んでいたが、3日に一度ホームヘルパーを入れてもらっていた。今の家だって祖母が用意してくれたものだ。いろはが寂しいときにはいつでも来れるように配慮してくれている。
「突然どうしたの?ばあちゃん」
流は少し不安げな表情の祖母に優しく声をかけると祖母は口を開いた。
「うちの初等部のバスケ部の顧問の野火止先生が急病で倒れてしまってね・・・遠くの大きな病院に入院してしまったの。それで急遽顧問の先生を置いたんだけども・・・」
「大きな病院って・・・そんなに悪いの?」
「ええ・・・大きな手術になるそうなの。復帰の目途が立たない状況なのよ・・・それで新しい顧問の先生はバスケの経験が無くってね・・・流ちゃん、あなたに臨時でコーチをやってほしいのだけれど・・・」
流はプレイヤーであって人に教えられるような人間ではない。
人には向き不向きがある。かつて流は後輩の指導をしたことがあったが、どうしても自分の求めるプレイを押し付ける形になってしまう。
「コーチって・・・それは・・・」
「他に頼れる人がいないのよ・・・出来る限りでいいからあの子たちを強くしてあげたいの・・・流ちゃん」
流は夢を諦めたわけではない。この場所に引っ越してきて自主練習は毎日欠かさずにやっている。授業を終えて走り込みやシュート練習、ウエイトトレーニングも取り入れているし、勉強の時間も考えたらコーチをしている余裕はない。
「でも・・・」
「自分の練習の時間ね・・・」
「・・・・・うん。それに硯谷は男子禁制じゃなかった?」
男子禁制の学校に男子が入ったらまずいでしょ。
祖母の願いもわかる。でも・・・・
「いろはちゃんのバスケ、見てあげたくない?」
「いろはの・・・」
そう、いろはは硯谷バスケ部に所属している。いろはの親友の未有もだ。未有は長期休みになるといろはと共に家に遊びにきてよく懐いてくれていた。その二人の指導をしてあげられる機会でもある。
「ねぇ流ちゃん、今から練習見に行ってみない?」
「だから男子禁s「それは理事長の私が許可すればいいことよ。ほら、いきましょ。」
~~~~~~
半ば強引に硯谷の体育館に連れてこられた。
バッシュの音をボールの音、女の子の声が体育館にこだましていた。
「未有!」
「おっけい!!」
自然といろはと未有に目がいった。二人でオールコートのツーメンをやっている。軽いボールタッチでパスを出しあう二人の息はピッタリのようだ。
最後に未有がレイアップを決めると、そのゴール下にいる流と祖母に二人が気付いた。
「お兄!」
「お兄ちゃん!」
二人はまるでひな鳥のように流に寄って行った。
「みんな頑張ってますね。」
祖母は微笑みながら二人に声をかけていた。二人も「理事長せんせい!」「おばあちゃん」といって笑顔を光らせていた。
流は他の子達の練習に目がいっていた。
ミニバスの女子達のレベルは話に聞いていた通り、かなりレベルが高い。強豪といわれるチームというのは本当にすごいものだ。
そしてなによりも来る途中から目にしていた設備に驚きだ。
流はこの時、ある事を思いついたのだ。
「おばあちゃん・・・」
「なぁに?」
「もし俺がコーチを引き受けたとしたら、俺のお願いも聞いてくれますか?」
「??」
流のお願いというのは、この硯谷の設備を自分の自主練に使う許可をもらうことだった。早朝、深夜の使用許可である。
祖母はその条件を快諾した。もちろん時間制限アリだが・・・
話がまとまると、祖母は顧問の先生に事を説明した。
作品名:ロウきゅーぶ!~硯谷女学園サイド~prologue 作家名:れいもん