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緑茶ウォーズ

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会議の間ずっと、イギリスは「それ」が気になって仕方がなかった。
今日は運良く日本の隣に座ることができた。そのおかげで「それ」は手を伸ばせば届く場所にある。「それ」に手を伸ばしさえすれば、イギリスの小さな小さな夢は叶うのだ。
(別に不自然なことじゃない…さらっと言えばいいんだ、さらっと。)
それ一口もらうぞ、と。
先ほどからイギリスの心を占めているもの―それは日本の前に置かれた飲みかけのペットボトルであった。日本が自国から持ってきたらしいそれは漢字で商品名が書かれていて、深緑のパッケージから察するに日本茶が入っているようだった。
 イギリスはもちろん日本茶が飲みたいわけではない。用があるのはペットボトルそのもの、さらに言えば日本の桜色の唇がふれたであろう飲み口の部分にあった。いまさらこんなことを考えているなんてお前はいくつだと情けなくもなったが、こうでもしなければ思いがあふれて爆発しそうだったのだ。

―――日本とキスがしたい。したくてしたくてたまらなかった。

もはや直接とか間接なんて些細な問題だった。たとえ無機物を介したからといって、唇と唇が触れ合ったならそれはもうキスじゃないかそうに決まっている!―イギリスは募る思いのあまり、頭のねじが一本ぶっとんでしまったようだった。
しばらくすると会議は一時中断し、休憩時間となった。やるなら今しかない。
「に、にほん!それ一口飲んでもいいか!?」
自然に自然にと思えば不自然になるのが悲しき人の性だが、ご他聞に漏れずこのときのイギリスも相当不自然だった。だが日本はそれに気づかずさらりと答えた。
「ええ、どうぞ。」
思わずガッツポーズのひとつもとりたくなったが、ぐっと我慢してお、おうサンキュな、と平静を装ってそれに手を伸ばした。
もしかしたら気持ちの高ぶりのあまり手が震えていたかもしれない。先ほどから穴が開くほど見つめ続けていたペットボトルを持ち上げ、ふたを外し、口をつける―
ごくり、と一口飲み込むと、ただのお茶のはずなのにどこか甘い気がする。あぁ、俺はついにいま日本とキスをしてるんだぜと叫びだしそうになりながら、何事もなかったようにそれを日本の目の前に戻した。
 あとは日本が再びそれを口にすれば、それはもう間接じゃなくて直接と同じようなもんだろと、よくわからない妄想に浸っていられたのも束の間だった。
「あーもうしゃべりっぱなしでのど渇いちゃったよ〜って日本!いいものもってるじゃないか!」
突然現れたアメリカが、今まさにイギリスが日本の目の前に戻したペットボトルからぐびっとお茶を一口飲み込んだ。
作品名:緑茶ウォーズ 作家名:オハル