レジェンズ小話
ただ、静かに降る雪
名前を呼ばれて、外に出た。
ありえないことだと分かっていても、呼ばれたと信じてる。
広い庭は真っ白に染まって、夜空からはハラハラと雪が舞い落ちてくる。
今すぐ、彼らが降りて来そうだと思った。
「……ねぇ、僕はここにいるよ」
両手を天にかざしたせいで、肩に掛けていたショールが落ちる。
雪だといってはしゃぐリーオン。それをたしなめる振りして本当は嬉しいウォルフィ。
そして。
「落ちたぞ」
そう言ってショールを拾ってくれるのがグリードー。
でも、今その声を掛けてくれるのは彼じゃない。
ゆっくり振り返ると、呆れたような顔をしてこちらを見ているシュウが立っていた。
「お前さー。風邪ひくって」
そういうシュウこそ上着も着ずに出てきている。よほど彼のほうが風邪を引くのが早いだろう。もっとも、馬鹿だから風邪は引かないらしいが。
「平気だ」
差し出されたショールを肩に掛け、また天を見上げる。
背後で溜息が聞える。
「……こんな寒い日に、来るわけねーだろ」
「でも、呼ばれたんだ」
きっといつか、彼らはひょっこり帰ってくるんだ。
あのころのように、変わらぬ素振りで。
クイとショールを引かれたと思ったら、間にシュウの身体が割り込んでくる。
「おいっ、何してる」
「寒いんだよ。俺にも分けろよ」
「お前は中に入ってろ!」
なんて言っても、引く気のないシュウに根負けして、結局ショール半分を分けてやる。
1つのショールに身体を寄せ合い包まって、ただ空を見上げる。
どれだけそうしていただろう。
身体の心は冷えていたけれど、隣の体温に心が休まる。
「……なぁ、キザ夫」
不意に声を掛けられて視線を向ければ、シュウはいつものように笑った。
「中、入ろうぜ」
来なかったとも、気のせいだとも言わない風のサーガ。
彼も僕も、ずっと彼らがまた帰ってくることを信じているから。それは、ショールの下で握り合った掌から伝わってくる。
だから自然と頷いた。
「ああ。温かいココアでも用意させよう」