レジェンズ小話
いつもの光景
「今日は泊まって行くんだろう?」
すでに夜はどっぷりと更けている。夕食も風呂もスパークス家で済ませたシュウの背中に、ディーノは声をかける。
「おう。泊めてくれよ」
プレイ中のTVゲームから目を離さないまま、頷くシュウ。
こんな光景は日常となっているから、ディーノは溜息をつくだけに留める。
この家にシュウが来るのは珍しくも何ともないし、こうして泊まって行くのだって家族もメイドたちも慣れっこだ。きっとマツタニ家でもそうだろう。
「……お前、明日学校は?」
パソコンに向き合いながら、一応聞いてみれば。
「あー? 平気」
どこがだ、と突っ込みたくなる返事が返ってくる。
「僕は知らないぞ。あと、試験前に泣きついても知らないからな」
「えーっ、俺とお前の仲じゃん。友人は大事にしなきゃって言われただろー?」
背後でゲームオーバーを告げる電子音が流れる。シュウの頭脳もゲームオーバーに近い。
「努力もしないで、他人を頼るな」
プログラムをセーブして、マシンを落とす。椅子を回して振り返れば、絨毯の上にベタ座りしてシュウが情けない顔でこちらを見ていた。
「……駄目?」
「駄目だ」
ここで甘やかすとつけ上がるのは、それなりに長くなった付き合いで承知している。
「じゃ、しょーがねっか」
相変わらずの変わり身の速さで、シュウがグッと背伸びて立ち上がる。
やっぱりとディーノはまた溜息を吐く。
「マックやメグに迷惑かけるなよ」
「じゃー、ディーノが見てくれるんだろ? よっ、さすがは優等生」
「あのなぁ」
近づくと、腰を折って覗き込んでくる。そんなシュウの仕草にディーノは頭を押さえる。
こういう時のシュウに何を言っても無駄だ。
「よーし。決まりっ! じゃ、そろそろ寝ようぜ。今日はお前のベッドに泊めてくれよな」
ディーノのベッドは広いから、成長期の男子がふたりで寝たって十分余裕がある。ただ、この場合、同じベッドで寝るというのは別の意味があって。
ディーノの顔が赤くなる。
「客間で寝ればいいだろうっ」
「えー。せっかく泊まったんだし、いーじゃん。久しぶりなんだからさ」
ディーノの腕を取って、さっさと寝室へと連れ込むシュウ。
引かれる腕に、ディーノは溜息をついて従った。
「……明日も学校なんだ。ちょっとだけだぞ」
「えー。俺、明日は午後からなのに」
「僕は朝からだっ」
シュウの、こういった身勝手に文句は言っても結局は流されてしまう。幾度目かの溜息を盛大に吐いて、ディーノはベッド側に置いてあるサイドテーブルの写真立てを伏せた。