雀の翼を甘く見た
どうかといくら請われてもそんな浅い人間は重宝できない。人の足を引っ張ることを躊躇しない時点でなしだ。何より彼は花を泣かせた。師匠で弟子で、孔明の人生を変えた人を、薄暗くて寒い場所で泣かせたのだ。
執務室はもう目の前だった。扉を開く。向こうには恐らく例の男がいるだろう。それぐらいの猶予は与えられていたはずだ。案の定、狭くない部屋に人影があった。孔明殿、と丁寧に礼を取る男の顔を確認する。やはり先ほど花に暴言を吐いた男だった。
(必要なら、置いていって)
知らず孔明の口元が上がる。その表情に戸惑ったように男が後退するがもう遅い。無策で孔明の根城に入ってくる時点で彼は間違いなくど阿呆である。どれだけ孔明に八つ裂きにされても文句は言えない。花の目の前でなら孔明はいくらでも胡散臭くふわふわして見せるが今この場に花の目はない。要するに、どう振舞ってもいい。
(厳しいけれど、本当はとても優しい人)
花がそう評していた、彼女のための柔らかい師匠は今この場にはいない。