島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)2
「だけど…それしか方法がなかった。あのまま指をくわえていたら島が救った
ヤマトが残って地球は全て水没して…地下都市に水が入ったらそれこそ
全人類の破滅だ…ヤマトの乗組員だけが残っても…意味がないだろう?
艦長は…どんな気持ちで引き金を引いたんだろう…島…艦長に聞いて
くれよ…。加藤と山本と会えたか?」
進が少し笑いながら島に声を掛けた。
「なぁ…ユキ。」
進の口調が変わったのでユキは進の顔を見た。
「なぁに?古代くん?」
「合同慰霊祭が終わって…アクエリアスの水が引いたら…式を挙げよう。」
ユキの大きな目が更に大きくなる。
「二度目のプロポーズはまだ有効かな?」
進が頭を掻きながら言った。
「俺の意志と…島と艦長の遺言。島には事あるごとに言われてた…早くしろ、
ってね。」
ユキの大きな瞳から涙がぽろぽろ落ちる。
「クルーと家族だけの小さな式を挙げて静かに暮らそう。」(進)
「古代くん、いいの?本当にいいの?」(ユキ)
「ユキ?」
「私の為とか思ってない?」(ユキ)
「そんなんじゃない。俺たちの為、だよ。それに…」(進)
「それに?」(ユキ)
「島が先に幸せになるなんて…ちょっと悔しいじゃないか。」
進が“なぁ”と言って島の顔を覗きこむ。
「二人で幸せになろう。」
進の言葉にユキは小さくうなずいた。
翌日、軍の合同慰霊祭が行われた。
先の戦いで亡くなった者と一緒に行われる事になった。棺が壇上に並んでいる。第一艦橋のメンバーは士官服を来て出席していた。
「まず初めに大統領から一言お願いします。」
藤堂が進行役で壇上の隅にいる。大統領は静かに棺に90度の礼をすると連邦政府の国旗に礼をしてから話し始めた。
「今回の戦いは…不可抗力が重なり不幸な戦いになった。赤色銀河は再び
異次元に消えて行ったがその傷跡は計り知れないものが残った。今日、
ここに並ぶ棺の仲間だけでなく移民船団を護衛しながら戦死した者もいる。
一般の移民船団も全滅している。地球は…いつになったら平和に暮らせる
のか…皆様がご存じのようにヤマトもなくなってしまった…我々は心の
拠所を無くしてしまったがヤマトのように諦めず一縷の望みを信じて…
将来の平和を信じて生きていこうではありませんか。
太陽を鎮圧してまだ間もないのに…市民の皆様が普段の生活を取り戻し
始めた所だったのでなんといったらいいかわかりません。ただ干上がった
海に以前と同じ海水が幾分戻って来るかもしれないのがせめてもの救いで
あります。この戦いで散って逝った仲間に黙とうを捧げましょう。」
大統領の言葉の後1分間の黙とうが行われた。
この慰霊祭は国際放送で流されている。誰もが涙を流してみていた。
(兄ちゃん…)
会場で複雑な気持ちで壇上を見上げる次郎がいた。遺体のある家族は慰霊祭の中に招待されていた。島の家族も全員参加していた。島の父は母の手を握っていた。
「大介…」
母が小さく島の名前をつぶやいた。
「大介は…私達を置いて逝ってしまった…。まだ22歳だったけど私たちの人生
よりもっとたくさんの事をしたのかもしれない。そんなに急がなくても
よかったのに、って思うけど…テレサさんがずっと呼んでいたのかも
しれないな…。」
父は静かに言った。
「自慢の息子だった…本当に……。」
父の眼から涙が落ちた。
合同慰霊祭が終わると棺がひとつずつ壇上から下された。ヤマトのクルーが全員で壇上から下した。
最後に中央に置かれていた島の棺がメインクルーの手によって下された。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)2 作家名:kei