島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)2
「島を連れて帰れなくて本当にすみませんでした。」
落ち着いた進は島の両親に頭を下げた。クルーも揃って頭を下げる。島の両親は島の顔を見つめている。
「きれいな顔ね。」
母親が涙を拭きながら冷たくなった島の顔を撫でる。
「このくせっ毛…変わらないわね。今の次郎の年に…大介は家を出て行って
しまって…地球の為に戦ってくれた。別にこの子じゃなくてもいいのに、
って思う事の方が多かった…」
父は母の横に立ち静かに母の言葉を聞いている。
「自分の子供だけは絶対に帰ってくるなんて…そんな都合のいい事ある訳
ないのにね…。ねぇ古代くん?」
進は急に呼ばれてハッとした。
「大介は…幸せだったの?」
母は一度も女性を連れてこないまま逝ってしまった息子の事を聞いた。
「島は…幸せでした。一生の出会いを一瞬で終わらせてしまいましたが…
今…島は幸せだと思います。」
進は真っ赤な目ではっきり言った。父も母も意味が分からず聞いた。
「大介が…今?幸せなの?」(島の母)
「理解できないかもしれませんが島はテレサという女性と恋仲になりましたが
ご存じの通り白色彗星が地球を襲った時…巨大戦艦に戦いを挑んだ女性です。
島は…今、テレサと再会しているんです。」
真田が進の代わりに話す。
「どうしてわかるの?」(島の母)
「私には…わかるんです。テレサさんの心が…」
ユキが話に入る。
「私がもっと早く島くんの異変に気付いていたら島くんは助かったかも
しれない。だけど島くんはケガをしながら…ヤマトを守ってくれました。」
そこで父が入ってきた。
「大介がヤマトを守った?」
「島が…いたから地球を救えました。島がヤマトを脱出させたからヤマトが
水柱を断ち切る事が出来た…」
真田が我慢できず涙を流した。
「そんなに立派じゃなくてもよかったんだ。」
島の父は島の顔を見て言った。
「普通で…普通の女性と出逢い普通に幸せになってくれればよかったんだ。
私たちの息子として普通に生きていてくれればよかったんだ。」
島の父もハンカチを手に当てて泣いた。母もその場に泣き崩れた。
やがて遺族も減って遺体が安置されている部屋は静かになった。明日、軍の施設で合同慰霊祭が行われる。遺体の引き渡しはその後だ。
「古代くん?」
部屋に進とユキが残っていた。
「島さ…今、何話してるんだろう?」
進が棺に寄りかかり島の顔を見て言った。
「テレサと…何を話してるんだろうな。」(進)
「そうね…案外たいした事話してないかもしれないわ。だって島くんの中に
いたんですもの…何でもお見通しだと思うわ。」(ユキ)
「そうだな…ケンカとかしてないかな。あいつ結構短気だぞ?」(進)
「やだ、古代くんったら…島くん、女性に優しいの知らないの?軍の中でも
有名でかなり人気があったんだから。結構勘違いしちゃう女性だって
いたのよ?まぁ古代くんの事だから全く気付いてないでしょうけど。」
ユキの言った通りだったので進は何も言えなかった。
「古代くんの優しさと島くんの優しさはまるっきり別。そうね、守さんと
同じ空気だったかな。やっぱり長男って似ちゃうのかしら?」
ユキは島に“ねぇ?”と問いかけた。
「ユキ…ごめん。」
進が突然ユキに謝った。
「俺が…残る、って話…。艦長に“誰が波動砲の引き金を引くんだ?”って
聞かれた瞬間…そう、答えていた。そしたら艦長が言ったんだ。
“ユキを幸せにしろ、って言った島の言葉を忘れたのか?”って。
その時気付いたんだ…引き金を引いたら…絶対に戻れないって。
艦長も同じ考えでトリチウムと波動エネルギーを融合させて水柱を
断ち切る事を考えていた…」(進)
「そう…だったの。」(ユキ)
「男にはもう一つ、戦いがある、って。一人の女性を愛し、子供を作る事も
大切な戦いだ、って…。そして“任せろ”って言われた…ヤマトを失う
だけでも辛いのに…その上艦長まで…せっかく生還したのに…」
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)2 作家名:kei