島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)3
「え?島くん?」(ユキ)
「あ…島だけじゃないな…誰もがユキの事狙ってたから。いろんな意味での
競争があのチームワークを産んだんだろうな。」
進が笑顔になる。
「さて…お嬢様?お腹いっぱいだと思いますがヨコハマステーションで
甘いものなどいかがですか?」
進の提案にユキは進の手をほどき腕を組みなおして
「古代戦闘班長、別腹が“入ります!と申しております!」
と、返事をした。
「いよいよ…ユキのウェディング姿が見れるのね…」
ユキの母は食洗機に入っていた食器を棚に上げながらつぶやいた。
「あぁ…長かったような気もするけど婚約して3年…短かったような気も
するな…まるでふたりの幸せを邪魔するかのような戦いが多すぎた。
ヤマトで始まったふたりがヤマトが無くなった事で落ち着く、ような
気もして…複雑な気持ちだよ。」(父)
ヤマトは地球市民全体の心の拠所だった。
「誰よりも…ヤマトを失いたくないと思ったはずだ…式を挙げる、と決めた
時も辛かっただろうな。」
父は静かに進が持ってきたワインを飲んだ。
「進くんも立派になったな。最初は少年みたいで…幼かったのに重責のせいか
随分男らしくなったものだ。年相応の顔を見せてくれる時もあるが心の
どこかに“ヤマトの古代”が付いて回っていて…かわいそうに思った事も
あった。軍にいる限りその“ヤマトの古代”は付いて回るだろうけど…」
父がため息をつく
「ここに来る時は普通の22歳になってくれればいいわね。」
母も片付けが済んでワイングラスを持って父の横に座った。
「お疲れさん…まぁ一杯…。」
父が母にワインを注ぐ。テーブルにはユキの切ったチーズの残りがあった。
「いただきます。」
母がワインを一口飲む。
「一日も早く地上に戻って青い空の元、式を挙げられたらいいわね。」
母の言葉に父もなずいた。
「ただいま。」
ふたりは三浦に戻って来た。ユキがすぐに白血球のキッドを持ってきた。
「やっぱりやらないと…ダメ?」
進が聞くと
「そんな顔したってダメよ。数値が上がり始めたらどうなるか分かってる
でしょう?入院して放射線治療かもしれないのよ?」
少しユキの口調がきつくなる。
「……そうでした。」
進は観念したように左手を出すとユキが消毒した。
「素直にそう出せばいいのに…。」
検査はすぐに終わり少し待てば結果が出る。
「古代くん先にシャワーどうぞ。点滴の支度して待ってるわ。」
「了解~」
進はしぶしぶシャワー室に向かった。
「モリタ先生ですか?」
ユキは進がシャワーを浴びる音を確認して当直のモリタに連絡を取った。
<モリタです。進くん、どう?>(モリタ)
「はい、少し疲れが見えますが白血球の数値は随分追いつきました。今日、
明日辺りでそろそろ点滴終わらせて様子を見ようと思います。」
ユキは地球に戻って来てからの数値を教えた。
<なるほど…初日だけですね、数値が高かったのは…わかりました。それでは
あと二日間、しっかり点滴をしてください。それからは二日に一本にして
数値に異常がなければ一週間に一度にしましょう。検査は毎日しましょう。
毎日チェックしていれば安心ですから。キッドはまだありますか?>(モリタ)
「え…っと、後10日分あります。」(ユキ)
<今、どちらにいらっしゃますか?>(モリタ)
「三浦の地下都市です。」(ユキ)
<ではそちらにひと月分のキッドと点滴10本、送りますね。>(モリタ)
「取りに伺いますが…。」(ユキ)
<いえいえ、せっかくですからゆっくり休んでください。早速今日、送る
手配をしますから遅くてもあさってには届くでしょう。時間は何時が
よろしいですか?>(モリタ)
ユキはあさって、…と考えて
「夜がいいです。多分、遅くまで戻ってこないと思いますので…」(ユキ)
<了解…じゃぁ進くんによろしく。>
モリタはそう言って笑顔で携帯を切った。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)3 作家名:kei