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島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結篇の後)5

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<海>
良く晴れた日、だった。

式に参加するクルーが浜辺に全員集合していた。英雄の丘の下には母なる海が見える。海辺は一般市民は立ち入り禁止だったがクルーは職権乱用(?)で波打ち際まで来た。

誰もがその凪いている海を見てヤマトが沈んで行ったアクエリアスの海を思い出していた。はるかかなた遠くに見える第一艦橋…コーティングを施したせいかヤマトの原形を破壊することなく艦首を持ち上げて沈んで行ったあの姿…

だけど誰一人涙は見せない…ヤマトのおかげで未来を…夢を見られるようになったから…



しばらく海を眺めていたクルーも思い思いの場所へ散って行った。

  「古代」

南部が声を掛ける。

  「そろそろユキさんの支度があるから行けよ。」

メインクルーが二人を送り出す。

  「あぁ…そうだな。」

進が時計を見る。後2時間ぐらいで式が始まる予定だ。

  「じゃぁ…後で…待ってるな。」

進はパンプスを手に持って浜辺で裸足になっているユキに声を掛けるとクルーに手を上げて英雄の丘に向かって歩き出した。

  「やっと…ですね。」

南部が軽く息を吐きながら腕組みをした。

  「そうだな…長かったな。島も…沖田艦長もやっと安心できるだろう。」

真田が笑う。

  「でもそう言ってる真田さんは安心できてないでしょ?」

相原が突っ込む。

  「俺が?」(真田)
  「真田さん、何気に心配性、ですからね。弟分と妹分が気になってしょうが
   ないんじゃないですか?」

太田が核心を突く。

  「バカ、んなわけないだろ?」

真田は笑うがやっぱり心配に思う事がそれなりにあって目が笑ってなかった。

  「おや?目が笑ってないですよ?」

山崎が真田の顔を正面から見て言うとメインクルーは大笑いした。








  「いい天気ね…雨だったらどうしよう、って日が決まってからずっと思ってた。」

ユキが脱いだパンプスを履こうともせず今度は芝生の上を歩く。

  「沖田艦長と島くん…見てくれてるかな?」(ユキ)
  「きっと見てるよ。で、クツ、履けばいいのに、って思ってるはずさ。」

進が笑いながら言う。

  「だって砂も芝生も気持ちいいのよ?それに今パンプス履いたら砂だらけに
   なっちゃうもん。」

ユキが最高の笑顔を進に向ける。

  「幸せかい?ユキ…」

いつか聞いたセリフだ。

  「…当然でしょ?」

あの時と同じように少し肩をすぼめてユキは笑顔で返した。

  「いつも思うの。今以上の幸せはない…って。だけど前の時よりうんと
   幸せで…いつかこの幸せが壊れてしまいそうで怖くなる時があるの。
   だけど壊れそうなとき、いつもみんなが助けてくれた…だから私は前より
   幸せになってるの。」

ふたりはゆっくりと丘を登って行く。振返るとクルー達は海辺で遊んでいる。遠目に坂巻と加藤が水を掛け合いっこしてるのが見える。

  「誰かしょっぱいの確認してないかな?」(進)
  「さぁ…坂巻くんと加藤くんあたり…くちに入っちゃったんじゃないかしら?」

ずっとふたり、手を繋ぎながら英雄の丘を目指して登って行った。











英雄の丘は静かにその時を待っていた。祭壇が設けられ真っ赤なバージンロードがひかれている…。ちなみにこの式が終われば英雄の丘も工事に入り新しい石碑が並べられる…





<英雄の丘にて>
沖田の像をバックに祭壇が設けられて神父が祭壇に立った。すると厳かなパイプオルガンの音楽が聞こえてくる…。

ヤマトのクルーとユキの両親、藤堂夫妻と晶子、加藤、山本、島の家族が見守る中ユキが父と腕を組みバージンロードを歩き始めた。真っ白なドレスを身にまといヴェールに隠された顔はうつむき加減でその表情を見る事は出来ない。





  「ユキ…おめでとう。」

父が小さな声でユキに伝えた。

  「お前が私たちの娘でよかった。ユキのやりたい事、したい事全てにおいて
   反対してきてしまった事、とても後悔している。ユキの人生なのに私達と
   同じ無難な人生を歩んでほしくて…本当に済まない事をした。これからは
   ユキと進くんの第一の理解者になりたいと思っている。なんでも相談しな
   さい。出来る限りの事はするよ。これが今までの罪滅ぼし、ってわけじゃ
   ないが…これから仕事を続けるとなると親のバックアップはあった方が
   いいはずだ。」

ユキの腕がかすかにふるえている。

  「ユキは私たちの自慢の娘だ。これからもがんばりなさい。」

ユキの視界が大きく揺れる。

  「パパ…」
  「ユキは世界で一番素晴らしい人を見つけた、と思うよ。私にとっても
   自慢の息子だ。さぁ…バトンタッチだ。」


ユキと父はゆっくり歩いて進の待つ所までやってきた。

  「進くん、ユキを頼むよ。放って置くと何をするかわからない娘だ。
   しっかりたずなを引いておくれよ。」

父親はそう言ってユキの手を進に委ねた。ユキの足元に涙が零れ落ちる。

  「泣くのは早いぞ?」

そう言う父の眼もうるんでいる。

  「お父さん…」(進)
  「頼むな。」(ユキの父)
  「はい。」(進)

進はユキの手を取り自分の腕に通すと神父の待つ祭壇へ向かってゆっくり歩いた。








進は今までの事が走馬灯のように頭をよぎる。出会い、惹かれあい…だけど使命の為に心を殺して任務を遂行した頃…想いは伝わっているのに思い通りにいかなかったあの時……守っているつもりが守られていた事…何度そのか細くしなやかな体に縋った事だろう……いつしかユキに導かれているようなそんな気がしてならない。

  (そうだった…ユキはいつも俺の一歩前を歩いて道を開いてくれてたんだ)

肉親のいない自分に肉親以上の愛を注いでくれる…




   これ以上の幸せは求めない……


進の眼にも涙が溢れそうになっていた。