腐れ縁歴ウン百年目の発覚事項
眠れない眠れないと二徹明けでうだうだしていた幼馴染を見かけ、そのもの珍しさになんとなく子守唄でも歌いましょうかと申し出た昼下がり。
どうせならと一足飛びの入眠効果を期待した一曲目は、意外にも相手がその説話を知っていて、全力ダメ出しのち却下。
ならば今度は相手の頭などを撫でるオプション付き。子供扱いにむずがっていたものの、そうしてぽんぽんあやしながら二曲三曲、記憶頼りの子守唄をぽかぽか陽気の気分そのままにゆっくりと歌っていたら、相手はいつの間にやら寝付いていた。
みっしょんくりあー。とても良い気分であります、隊長。
眠る銀髪を眺めながら、心の中の見知らぬ上官へ任務完了報告。
セットしていない状態のその短髪を撫でるなんて、いつ以来だろう。
整髪料をつけていない髪はやわらかく、小鳥ちゃんがよく頭に乗っているのもうなずける。
なかなかの撫で心地を楽しんでいたところで、コップから水があふれるように小さな声がぽつりと零れ落ちた。
「……あなた、本当は頭撫でられるの好きでしょう」
ソファに長身を横たえ眠る銀髪を、背もたれに肘ついてやさしめに撫でながら、私は、思いもよらなかった私自身のその言葉に驚く。反面、不思議なことにそれは私の中にすとんと落ちてきれいに収まってしまった。
もしこの行為が今までの私の認識通り、こいつにとって嫌がったり困ったりする事なら、こうして眠るなんて出来やしない。そういうやつだし、実際そういう場面もあった。
それがいつの間に変わったのかはわからない。けれど、こうして寝付いてしまうくらいには、されるとリラックス出来るだろう。
褒めろ讃えろ跪けーなんて事は大声のドヤ顔で言っちゃうこの筋金入りの俺様野郎でも、頭撫でろは難易度が高かったとみえる。
一つずつ推測の解を繋げていき、さてじゃあいつから変わったのだろうとふと気になりだした。
流石に夜襲時はカウントから外して、それ以外でこいつの頭をくしゃくしゃにした時の思い出を引っ張り出す。ひとつひとつ吟味しながら、子供時代の延長のようなやりとりばかりしてる自分達を振り返ると、なんだかこそばゆい。
さておき。反芻してもあいつの様子の差異らしきものに思い当たらず、むしろ、あの時ああだった、この時もそうだったといった、共通項ばかりが浮かび上がる。午後に多かったとか、あいつは大体いつもドヤ顔でばりっときめていたとか。
……あれ?
「もしかして、かっこつけてきてたのって頭撫でてほしかったから?」
返ってくる筈のない問いかけに、それはないかとセルフツッコミ。と、声が大きかったか、寝ているあいつが何かうなりながら寝返りをうつ。
流石に二徹明け疲労困憊の相手を、こんな事で起こすのはしのびない。
最後に一撫でし、なるべく静かにソファから離れる。毛布かタオルでもと、リネン室を探しお目当ての物を抱えて戻ってくると、あいつの寝相が大分変っていた。
ソファの背もたれに向かってうつぶせて、なおかつ光を遮るように腕を頭に乗せている。表情なんてとても見えやしないその体勢でも、襟足からわずかに覗く首の赤さに、さっきの問いの答えを見た気がして、私は。
『腐れ縁歴ウン百年目の発覚事項』
作品名:腐れ縁歴ウン百年目の発覚事項 作家名:on