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階段

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エターニア城のエレベーターが故障した。
前は良かったのだ。城が小さかったからだ。しかし、ここ最近は仲間も増えて城も増築している。
増築していると言うことは城の住人も多くなったと言うことだ。喜ばしいことではあるが、
不具合や苦情なども多くなっていく。
「……何でエレベーター壊れたのかな?……歩くの疲れるのに」
城主にして、同盟軍リーダーでもあるナオはぼんやりとエレベーターを見た。
そこには故障中と張り紙がされている。
リーダーとは言っても年齢は十六歳ぐらいだ。ぐらいと着いているのはナオも自分の年齢を
把握していないかである。彼は拾われっ子なのだ。
「動力がイカれたんだろう。それと、歩くのは俺だ」
エレベーターが壊れて苦労するのはナオではない。いつもナオを背負っているクライブだ。
同盟軍リーダーであるナオだが、普段からいつも眠たがっている。戦闘の時は目が覚めるのだが、
それ以外の時は常に眠そうだ。何とか起きている時が多い。歩くのもままならないため、
クライブがいつも運搬をしているのだ。エレベーターが無いとなると大変だ。
ナオの部屋は五階にあるのだ。
ちなみに城のエレベーターは一部の人しか知らないのだが人力でエレベーターバーバリアンと呼ばれる男が
動かしているのが、ナオはそのことを知らない。クライブは知っているが言わない。
「んー……じゃあ、不便だね。テレポートは?」
「城の中でテレポートするとなるとよっぽどぐうたらだぞ」
「だねー」
「で、何処に行くんだ?」
ナオが起きてきた時はエレベーターはまだ故障していなかった。故障したのはクライブが
迎えに来てすぐ後だ。城の中をテレポートする案は没にした。今日は久しぶりの休みである。
「……色々回りたい」
「クライブ、ナオ」
「ニナ……どうかしたの?」
「宣伝って言うか、これからアンネリーたちが演奏するの」
グリンヒル・ニューリーフ学院の学生服を着たニナが階段から下りてきた。ニナもナオ達の仲間だ。
今日はアンネリーたちが演奏をするらしく、宣伝をしているらしい。ナオがクライブのフードを引っ張っていた。
「聞きに行こうよ」
「はいはい……」
「私はテレーズさんとかジェスとかシュウさんにも言ってくるから」
ニナは階段を下りていく。エレベーターが無いことを気にしていないようだった。
「元気だね……」
「お前もそれぐらい元気でいろ」
「眠い……」
「……行くぞ」
クライブはナオを背負いながらナオが軽くなった、と思う。
戦争が激化してきている間にナオの体重が軽くなってきた。クライブが見ている限り食事はちゃんと取っているから、
右手の紋章が体力や体重を削り続けているのだろう。
昔からナオは眠たそうにしていたが、紋章を宿してからは酷くなっているらしい。
ナオが命を削り、紋章を使い続けていることを知る者は少ない。ナオ本人は開き直っているのか、
諦めているのかは不明だが、気にしないような感じで紋章を使い続けている。
最短ルートを判断してクライブは歩いた。ナオを連れ回っているせいで城の構造には詳しくなっている。
改築を続けているために城は広くなり迷路のようだ。階段を一つ上がって右に進んで行くと
小さなステージがある。出しものを良くやるところであり、クライブはたまにそこの影のところにいる。
ステージの上ではアンネリー、ピコ、アルバートが準備をしていた。
サウスウィンドウに行った時、戦争でピコとアルバートと離ればなれになったアンネリーを見つけ
そしてグリンヒルでピコをティントでアルバートを見つけた。
椅子が空いていたのでナオを座らせる。クライブはその隣に立った。
「歌を聴くと眠くなるな……」
「寝過ぎは止めろ」
「……どうしても眠くなってさ……」
ナオが欠伸をする。
周囲が静まりかえり、ステージの上にアンネリーとピコとアルバートが立った。
アルバートはコントラバスをピコはギターを持っている。メロディーが弾かれた。
そのメロディーにクライブは聞き覚えがあった。ハルモニアの歌だ。クライブはハルモニアで育っているが、
アンネリーもハルモニアで育ったと聞いたことがある。組合ではエルザが歌ってくれた歌だ。
静かなアンネリーの声がステージから全体へと届く。ハルモニアで歌われることが多い、子守歌だった。
アルバートのコントラバスがベースとなっているが低く、リズムを刻んでいる。
ピコのギターがアンネリーの繊細な歌と絡んでいる。
聞き入っている観客は騒ぎ立てる者は居ない。アンネリーは旋律を紡ぎ続ける。
歌が終わり、アンネリーがお辞儀をする。お辞儀をしてもしばらくは静かだ。
やがて、どこからか拍手が出て、それが全体に広がり、ある者は歌声に泣いている。
ナオがアンネリーのところに行きたそうだったので、ナオの手を引っ張って立たせた。短めの距離ならば
自分で歩けるのか、クライブを置いて蹌踉めきながら歩いている。
「やっぱり上手だね。意味解らないけれど」
「ありがとう。ハルモニアの歌なの」
「そうなんだ」
飾り気もなく誉めるナオにアンネリーが笑顔を零した。ナオはまた欠伸をする。
クライブがナオの方に行くとナオを椅子へと手を引いて戻した。次の歌もあるからだ。
自分で帰れるよと言ったのだが昔、食べながら寝てしまったこともあったので念のために連れて行く。
クライブも一言、”良い歌だ……懐かしい”と小声でアンネリーに聞こえる程度に
言った。アンネリーはまさか無愛想ガンナーに誉められるとは考えても居なかったのだろう。
暫く目を見開いていた。
「クライブが人を誉めるってナナミがたまーに美味しい料理を作る時みたい」
クライブの褒め言葉はナオにも聞こえていたらしい。眠気が覚めていたようだ。
例え方にクライブは不快そうにするが、ナオとしては滅多にないと言いたいのだろう。
「……俺だって誉める時はある……」
むっ、とした風にクライブが言った。アルバートがまたリズムを取る。二曲目が始まった。



演奏を全て聴き終わった後は食堂で食事を取り、あちこちを回っていた。
用事を済ませていると夜になっていた。クライブはずっとナオに付き合っていた。
エレベーターはまだ故障中だったので、部屋までナオを運ぶことになった。五階である。
五階まで昇って行かなくてはならないのだろうか。
「今日は平和だったね」
「戦争中だと言うのに」
「ちょっとぐらいは良いじゃない」
その辺にいる兵士にも頼めばいいかも知れないが、後でまた怒られそうだったので……クライブはナオの世話係と
周囲に想われている……一階から階段を上りだした。
ぼんやりとした声でナオは言った。二階から三階への階段を上る。これが意外と長い。
今日は平和な日であったが、これが終わればまた戦争へと逆戻りだ。ハイランド王国との戦争は続いている。
「……ギスギスしているよりはマシか」
クライブが階段を上っていると窓から白い蝙蝠が飛んでいくのが見えた。シエラだろう。
シエラにとってはこれからが昼のようなものだ。
三階は執務室だ。ジェスとシュウやクライスの話す声がした。
「大変……」
作品名:階段 作家名:高月翡翠