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たとえばこんな

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 分厚いコートに身を包んだプロイセンは寒空の下、白い息を吐き、何本めかの煙草を踏みにじった。

 ハンガリーに、恋人が出来たという。
 それが、どうやら、人間の男らしい。


 悪友づてにその情報を耳に入れた当初、プロイセンはそれをまったく本気にしなかった。彼の知るハンガリーという女に限って、そんなことは、まずありえないと思ったのである。
 しかし、ここ十数年、自国のごたごたにかまけて彼女と疎遠だったことは確かだった。妙な噂がたってしまう程イレギュラーな状況下に彼女が陥っているなら、把握しておく必要がある。けして個人的に心配だとか気になるというわけではないが云々と、さりげなく言い訳しながら秘密裏に放った諜報員からの報告に、プロイセンは、わが耳を疑った。

 彼女は、頻繁に城下の街を訪ねては、若い男と密会を重ねているという。
 その頻度は人間の時間にして月に一、二度。国の身からすれば異常な程の回数だ。しかも、どうやら十年近く前からの話らしい。

 その翌朝、夜行列車を乗り継いでプロイセンはブダペストの駅におりたった。



作品名:たとえばこんな 作家名:しおぷ