misson-G
耳に痛いほどの沈黙がブリーフィングルームを支配した。
「……なんだよ、」
じり、とクラウドはあとずさった。大男三人に注視されればそれも致し方ない。ましてや、その内のひとりは親友ではあるが、他ふたりは1stクラストのソルジャー、一般兵のクラウドとは身分的にも身体的にも天と地ほどの差がある。
ソルジャーたちの目は驚きに見開き、口も同様にぽかんと開いていた。
英雄と呼ばれている男は辛うじて口を結んだままだが、普段の無表情は失せ、驚愕を浮かべたまま瞬きを忘れて固まっている。クラウドはそれを見て、平素なら貴重なものを見たとでも思っただろうが、今は腹立たしさしか感じなかった。
「っくそ!なんだよ!!何とか言えよ!!いっそ笑えよっ」
「いや、」
ようやくセフィロスが口を開いた。
「見違えた」
「すっげーな……付け毛と服とメイクだけでこんなになるのかよ…」
「……何と言ったらいいのか……正直これほど似合うとは」
「ちくしょう!言うな!黙れ!」
「何か言えばいいのか黙ればいいのか、どっちなんだ」
冷静にセフィロスが突っ込む。彼の突っ込みは希少だが、それよりも大変なことが目の前にあるので誰も意を介さなかった。
クラウドはいつもの制服姿ではなかった。制服には違いないのだが、少なくとも兵装ではない。
セーラー襟のブラウスに白のブレザー―――いわゆるセーラーブレザーと、紺と深緑のチェック柄のプリーツスカート、そこから伸びる足は黒のタイツ、足元はローファー。ミッドガルの高等学校の指定制服である―――ただし、女子学生の。ちなみに両肩には付け毛のお下げが垂れている。
スカートは膝上よりも短く、もちろんスカートなど穿いたことのないクラウドは心もとなくて仕方がない。裾を押さえてスースーする腿をすり合わせるように寄せると、「クラウド、その仕草はちょっとまずい」と深刻そうな顔でザックスが咎めた。
確かに男がこんな格好で、内股でモジモジすれば気持ちが悪いだろうと思い、クラウドは脚をしゃんと伸ばした。女子制服とまるでそぐわない、足を肩幅に広げた休めの姿勢を取る。
「うん、そうそう。さっきのは他のやつらの前ではしちゃ駄目だぞ」
「なんで」
ザックスは常にないまじめくさった顔で言う。
「なんでって…男に襲われたくなんてないだろ?さっきのは飢えた独身軍人の下半身的にまずい。お前の貞操が危ない。非常に。」
笑ってからかわれたほうがマシだ、とクラウドは思った。
「しかし、これでミッションは滞りなく追行できそうだな」
クラウドの不機嫌をフォローするように、アンジールが本題を切り出した。
「ストライフ、今回のミッション概要を説明する……と、その前に参加意思を確認したほうがいいか?」
「いえ、自分は大丈夫です。ご配慮ありがとうございます、サー」
ぴしっときれいに敬礼を決めるが、いかんせん女学生姿では格好がつかなかった。威勢のいいお嬢ちゃんの図にしか見えない。あまりの微笑ましさにザックスが吹き出した。その瞬間セフィロスの裏拳がザックスの顔面にクリーンヒットした。見切ることを許さない素晴らしい速度だった。ザックスの体はものすごい勢いで吹き飛び、壁にぶち当たった。そのまま崩れ落ちて微動だにしない。
「あ、あの」
「馬鹿は放っておけ」
「大丈夫だ、ソルジャーはあのくらいでは死なん…多分」
ソルジャー1stクラスは非情だった。クラウドも突っ込んではいけない空気を察してザックスの容態は忘れることにした。気持ちを区切ったクラウドに、アンジールと、特にセフィロスは満足そうに頷いた。
「さて、ミッションだが、一五〇六、1番街駅発の外回り電車に乗車、学園前駅にて下車、そこから3番街方面へ移動……予定時刻一五三〇、この場所と時間帯でヤツは目撃されている。発見し次第、追跡。可能ならヤツの行き先…目的を突き止める。攻撃行動は一切なし。ただし緊急の場合を想定し銃器の持ち出しを許可する。だが相手にそれを悟らせるな。小型無線機の使い方は分かるな?」
アンジールはクラウドの胸についている金のブローチを指差した。一見校章のように見えるが、高性能の集音機と通信機を内蔵されている。クラウドは大きく頷いた。こうしたミッションに関わる機器を扱う演習は何度も行っていた。
「イエスサー。それと、質問をよろしいでしょうか、サー」
「許可する」
「ただの尾行でしたら、兵装以外なら何でも構わないのではないでしょうか。自分はこんな格好は慣れていないので、不自然な印象を持たれる可能性があるかと」
アンジールはもっともな意見に口ごもった。それは自分の疑問でもあったが、発案者が頑として譲らなかったのだ。思わず発案者を振り仰ごうとしたとき、セフィロスが口を開いた。
「相手が只者ではないからそれを着用する必要があった。アレは勘が鋭い。3番街はいわゆる学生街で、その時間帯に私服でうろつく年頃の子供は悪目立ちする。ターゲットは女性のファンが多いらしいから、女性の姿をしているほうが油断を誘える。まさか女学生が神羅の兵士だとは思うまい。以上、納得したか?ストライフ」
「イエスサー!作戦の有効性を疑うような発言、申し訳ございません」
再び敬礼をするクラウドの頭を大きな手が撫でる。セフィロスは目を眇めて言った。
「大丈夫だ。お前に不自然なところなどない。お前がいればヤツの目的を暴くことができるだろう。頼りにしている」
「は、はいっ」
英雄の激励にクラウドは頬を赤らめた。だがはたから見れば美丈夫の誘惑に赤面するうぶで可憐な女学生の図だった。犯罪臭がする、とアンジールは思ったが口には出さなかった。さもなくばザックスの二の舞になるだろう。
「クラウド、お前、絶対だまされてるぞ……」
床に伏したままのザックスがうめいていた。
「では一四四〇、エントランスに集合。ストライフは裏の搬入用エレベータを使ってエントランス外で待機。ザックスと合流し1番街へ向かえ。オレは先回りして3番街の時計台で監視を行う。以上、ミッション・コードGを開始する!」
「アイサー!」
「……なんだよ、」
じり、とクラウドはあとずさった。大男三人に注視されればそれも致し方ない。ましてや、その内のひとりは親友ではあるが、他ふたりは1stクラストのソルジャー、一般兵のクラウドとは身分的にも身体的にも天と地ほどの差がある。
ソルジャーたちの目は驚きに見開き、口も同様にぽかんと開いていた。
英雄と呼ばれている男は辛うじて口を結んだままだが、普段の無表情は失せ、驚愕を浮かべたまま瞬きを忘れて固まっている。クラウドはそれを見て、平素なら貴重なものを見たとでも思っただろうが、今は腹立たしさしか感じなかった。
「っくそ!なんだよ!!何とか言えよ!!いっそ笑えよっ」
「いや、」
ようやくセフィロスが口を開いた。
「見違えた」
「すっげーな……付け毛と服とメイクだけでこんなになるのかよ…」
「……何と言ったらいいのか……正直これほど似合うとは」
「ちくしょう!言うな!黙れ!」
「何か言えばいいのか黙ればいいのか、どっちなんだ」
冷静にセフィロスが突っ込む。彼の突っ込みは希少だが、それよりも大変なことが目の前にあるので誰も意を介さなかった。
クラウドはいつもの制服姿ではなかった。制服には違いないのだが、少なくとも兵装ではない。
セーラー襟のブラウスに白のブレザー―――いわゆるセーラーブレザーと、紺と深緑のチェック柄のプリーツスカート、そこから伸びる足は黒のタイツ、足元はローファー。ミッドガルの高等学校の指定制服である―――ただし、女子学生の。ちなみに両肩には付け毛のお下げが垂れている。
スカートは膝上よりも短く、もちろんスカートなど穿いたことのないクラウドは心もとなくて仕方がない。裾を押さえてスースーする腿をすり合わせるように寄せると、「クラウド、その仕草はちょっとまずい」と深刻そうな顔でザックスが咎めた。
確かに男がこんな格好で、内股でモジモジすれば気持ちが悪いだろうと思い、クラウドは脚をしゃんと伸ばした。女子制服とまるでそぐわない、足を肩幅に広げた休めの姿勢を取る。
「うん、そうそう。さっきのは他のやつらの前ではしちゃ駄目だぞ」
「なんで」
ザックスは常にないまじめくさった顔で言う。
「なんでって…男に襲われたくなんてないだろ?さっきのは飢えた独身軍人の下半身的にまずい。お前の貞操が危ない。非常に。」
笑ってからかわれたほうがマシだ、とクラウドは思った。
「しかし、これでミッションは滞りなく追行できそうだな」
クラウドの不機嫌をフォローするように、アンジールが本題を切り出した。
「ストライフ、今回のミッション概要を説明する……と、その前に参加意思を確認したほうがいいか?」
「いえ、自分は大丈夫です。ご配慮ありがとうございます、サー」
ぴしっときれいに敬礼を決めるが、いかんせん女学生姿では格好がつかなかった。威勢のいいお嬢ちゃんの図にしか見えない。あまりの微笑ましさにザックスが吹き出した。その瞬間セフィロスの裏拳がザックスの顔面にクリーンヒットした。見切ることを許さない素晴らしい速度だった。ザックスの体はものすごい勢いで吹き飛び、壁にぶち当たった。そのまま崩れ落ちて微動だにしない。
「あ、あの」
「馬鹿は放っておけ」
「大丈夫だ、ソルジャーはあのくらいでは死なん…多分」
ソルジャー1stクラスは非情だった。クラウドも突っ込んではいけない空気を察してザックスの容態は忘れることにした。気持ちを区切ったクラウドに、アンジールと、特にセフィロスは満足そうに頷いた。
「さて、ミッションだが、一五〇六、1番街駅発の外回り電車に乗車、学園前駅にて下車、そこから3番街方面へ移動……予定時刻一五三〇、この場所と時間帯でヤツは目撃されている。発見し次第、追跡。可能ならヤツの行き先…目的を突き止める。攻撃行動は一切なし。ただし緊急の場合を想定し銃器の持ち出しを許可する。だが相手にそれを悟らせるな。小型無線機の使い方は分かるな?」
アンジールはクラウドの胸についている金のブローチを指差した。一見校章のように見えるが、高性能の集音機と通信機を内蔵されている。クラウドは大きく頷いた。こうしたミッションに関わる機器を扱う演習は何度も行っていた。
「イエスサー。それと、質問をよろしいでしょうか、サー」
「許可する」
「ただの尾行でしたら、兵装以外なら何でも構わないのではないでしょうか。自分はこんな格好は慣れていないので、不自然な印象を持たれる可能性があるかと」
アンジールはもっともな意見に口ごもった。それは自分の疑問でもあったが、発案者が頑として譲らなかったのだ。思わず発案者を振り仰ごうとしたとき、セフィロスが口を開いた。
「相手が只者ではないからそれを着用する必要があった。アレは勘が鋭い。3番街はいわゆる学生街で、その時間帯に私服でうろつく年頃の子供は悪目立ちする。ターゲットは女性のファンが多いらしいから、女性の姿をしているほうが油断を誘える。まさか女学生が神羅の兵士だとは思うまい。以上、納得したか?ストライフ」
「イエスサー!作戦の有効性を疑うような発言、申し訳ございません」
再び敬礼をするクラウドの頭を大きな手が撫でる。セフィロスは目を眇めて言った。
「大丈夫だ。お前に不自然なところなどない。お前がいればヤツの目的を暴くことができるだろう。頼りにしている」
「は、はいっ」
英雄の激励にクラウドは頬を赤らめた。だがはたから見れば美丈夫の誘惑に赤面するうぶで可憐な女学生の図だった。犯罪臭がする、とアンジールは思ったが口には出さなかった。さもなくばザックスの二の舞になるだろう。
「クラウド、お前、絶対だまされてるぞ……」
床に伏したままのザックスがうめいていた。
「では一四四〇、エントランスに集合。ストライフは裏の搬入用エレベータを使ってエントランス外で待機。ザックスと合流し1番街へ向かえ。オレは先回りして3番街の時計台で監視を行う。以上、ミッション・コードGを開始する!」
「アイサー!」