misson-G
クラウドはエントランスのすぐ前にあるベンチに腰掛けていた。社員や門兵がじろじろと無遠慮な視線を向けてくる。ソルジャーのおっかけの女性が入り口で出待ちしている光景はクラウドもよく知っている。それとそう変わりないだろうに。それとも、これが女装だということがばれているのだろうか。
(オレだって好き好んでこんな格好をしてるわけじゃない!)
段々と不愉快な気持ちになってきたクラウドの前に長身の男が二人現れた。セフィロスとザックスだ。いつも着ているソルジャーの制服ではなく、私服なのだろうラフな格好をしている。
クラウドは目を丸くした。セフィロスの私服姿は知ってはいるが、こんなラフな服装の彼を見るのは初めてだった。ザックスはともかく、ダメージジーンズを穿く英雄はクラウドの予想にはなかった。
「っていうか、なんでセフィロスさんもいるんですか」
彼は今回のミッションには不参加だったはずだ。アンジールも点呼していない。
「護衛だ」
「暇なんだってさ」
セフィロスとザックスの声が被った。じろりとセフィロスが睨みつけると、ザックスは「だって本当のことじゃん」と悪びれた様子もない。恐らく本当のことなのだろう。ということは、女装姿で奔走する自分をからかいに来たということか。クラウドは眦を吊り上げた。
「今回攻撃行動一切ナシですよね?必要ありません、サー」
「ストライフ、3番街に行ったことは?」
「ありません、サー」
「行ってから護衛の必要性を証明してやる。行くぞ」
セフィロスはにやりと笑った。意地の悪そうな笑みだ。クラウドはなんだか嫌な予感がした。一瞬ミッションを受けたのは間違いだったかもしれない、と躊躇したクラウドをよそに、セフィロスは駅に向かって歩き出した。彼のコンパスは大きい。ぼさっとしていると置いていかれてしまう。クラウドは早足でそれを追った。
「それと」
セフィロスは振り返った。
「その堅苦しい口調はやめろ。折角の外見が台無しだ。女の子の可愛らしい話し方はそこの自称教授にでも指導してもらえ」
クラウドの顔が真っ赤に染まった。恥じらいではなく、怒りで。
「この…っ!」
「わークラウドくんロープロープ!クールダウン!」
見かけは美少女の口汚い罵りと宥めすかすザックスの声を背に、セフィロスは歩き出した。こんなに楽しいミッションは久々、というより初めてかもしれない。
三番街は元々神羅の科学部門の寮や研究所があった。それが本社周辺へ引っ越して、その跡地は学区に改築された。通う学生のための塾や図書館が寄り集まって、学生街を成している。商店街はまだ新しく、他の地区よりも明るくのびやかな雰囲気がある。この街からはスラムは遠く、治安は随一と言われている。女学生が一人歩きしても問題はなさそうだ。
「やはり護衛は不要と思われます。僭越ながら、むしろ悪目立ちすると思いますが、サー」
不機嫌な顔を向けたクラウドの唇を、長い人差し指が押さえた。セフィロスが少し屈んで顔を覗き込む。あ、とクラウドは思い当たった。
「護衛はいらない、と思い…思うんだけど」
口調を改めろということだった。
「それをこれから証明すると言っただろう」
間近に迫ったセフィロスが、先ほどのような意地の悪いことを思いついた顔で笑う。唇に当てた指をゆっくりと離し、クラウドの手に硬貨を乗せた。
「あそこの店でドリンクを買って来い。お前の好きなものとホットを」
「セフィロース、オレのは?」
「飲みたいのなら自腹で買ってこい。……ストライフ、これは小テストだ。お前があの店で無事買い物を済ませられれば護衛は必要ないとみなす」
「クリア条件は、ドリンクを買うだけでいいので…いいのか?」
「そうだ。ただし条件がある。店員以外とは接触するな。声をかけられた時点でゲームオーバーだ」
「……なんだそれ」
わけが分からない。ぽかんとするクラウドとは対照的に、ザックスは意を得た顔をしている。
「あー、なるほど……」
「なにがなるほどなんだ?説明しろよ」
「説明するより実際体験したほうが早いし、お前も納得するだろう。至極簡単なテストだ。それでも降りるか?」
「…・・・やる。ホットコーヒーな」
「ああ、砂糖とミルクは要らん」
クラウドはコンコースの階段を駆け下り、ロータリーへ飛び出していった。スカートの裾が翻るのも気にしていない。厚手のタイツに包まれた、まだ筋肉の付きの薄いほっそりした太ももまで露になる。あちゃあ、とザックスは頭を抱えた。勢いよく飛び出してきた女学生は外見も相まって人の視線を集めていた。
セフィロスが指定した店はロータリーを挟んだ反対側にある。そう距離はなく、5分とかからず戻ってくるだろう―――なにも起こらなければ。
「セフィロス、意地が悪いなあ」
「では面と向かって言ってやればいいのか?今のお前は可憐な女学生にしか見えないからナンパの危険を考慮して護衛に付くと」