だぶるおー じゃがいもすーぷ2
ちゃんと刹那にはプレゼントまで渡しているし、刹那も素直に受け取っている。昨日の九割殺しとか言っていた殺伐とした雰囲気ではない。
「ある意味、ここの家庭のスキンシップなんだよ、ライル。だから、本気にしないでね? 」
「一応、腹には何発か沈めてあるけど、あれぐらいじゃ、びくともしねぇーんだよな、あの親父。」
驚いているライルに、アレルヤとハレルヤが声をかける。はた迷惑なスキンシップには、毎度曝されているから、こちらも慣れたものだ。ティエリアに到っては、階下に下りて弁当の数を確認していたりする。ちゃんとバイトの分も用意してあるのが、常だが、ライルの分があるかどうか確認だった。
・・・あれがスキンシップ? 意味がわかんねぇーよ、兄さん・・・
ライルは、兄が、ここに暮らしている理由を知らないから、大混乱だが、周囲は、いつも通りであるらしい。アリーの来訪は、毎度、こんな騒乱がついているのだ。
「アリー、ケーキは? 」
「え? 食うのか? ちび。」
「クリスマスなら食う。」
「そうか。おい、ライル嬢ちゃん、ちょっとひとっ走り、ケーキ買ってきてくれ。」
ドアのところに佇んでいたライルに、札を握らせてアリーが命じる。すると、アレルヤが、それを横取りして、僕らが行って来る、と、階下へ降りていった。自分の兄だが、なんか遠い世界にいるんだな、と、ライルも階下へ下りて行った。
「あれは、完全に誤解してるな? 」
「あんたとできてるって? はははは・・・別に、いいんじゃねぇか? 俺、刹那の奴隷だし? 」
肩を落としたライルの様子に、アリーは大笑いしている。しかし、ニールの発言に、刹那が慌てている。
「ニール、俺は・・・あんたのことを奴隷とは思っていないっっ・・
・確かに最初の契約は、アリーが、そう言ったが、それは違うんだ。・・・俺は・・・あんたが・・その・・・」
ニールの両手を掴んで、必死に弁明するのがおかしくて、ニールもアリーも吹き出している。この態度が、刹那の気持ちを明確に伝えているのだが、当人は気付かない。そして、なぜか、こういうことだけ晩生だ。なんでもござれの傭兵スキルは最高値なのに、こういうことだけダメというのが、おかしい。
「はいはい、わかってるよ、刹那。俺は、おまえの奴隷じゃなくて家政夫さんだな? 」
わかっていて、ニールも混ぜ返す。八歳から育てたのだから、刹那の性格は熟知している。だが、最後の一言が出てこないのだ。いつか、それを言ったら食われてやろうとは思っている。
「兄さん、アリーとやった? 」
「うーん、汗はさんざんかかされたし、ピロートークも展開したよ。そんなとこ? 」
後日、俺が意を決して尋ねたら、答えは、こんなものだった。余計に俺の疑念は深まるばかりだ。
「もしかして、結婚してる状態? 」
「してません。」
「それなら休み貰って、実家に顔出せよ。八年も帰ってないだろ。」
「そうは思ってるんだけどさ、旅費が、なかなか溜まらなくてさ。」
「給料は? 」
「貰ってんだけど、使っちまうんだよな。」
「もっと、授業料取れば? 結構な時間割いてるんだからさ。」
「それも、さすがになあ。まあ、そのうち溜まるから。」
一週間ほど、アリーは滞在して、また出張に出た。次は、いつかわからないらしい。
「ライル、明日、ギネスパイを用意するよ。あと、食べたいものあるか? 」
いきなり、兄が話題を変えた。もう、この話はしないということだろう。しつこくして叱られるのもイヤだから、俺も、その話題に乗り換えた。
「コルカノンかクリームドポテトは欲しいな。寒い時は、あったかいクリームドポテトは最高だ。」
「ま、その程度なら作れるから、オッケーだ。子供たちには、普通のミートパイにして、おやつに出そう。」
明日の予定を考えつつ、ニールはピルスナーの軽いビールを飲んでいる。まあ、おいおいに、この謎は探求するとしよう、と、俺も同じように、バドワイザーを口にした。
作品名:だぶるおー じゃがいもすーぷ2 作家名:篠義