チビエド事件簿
「たっだいまーー!!」
「兄さん危ない!!」
アルの絶叫が部屋の中に響き渡ったのは、エドが部屋の扉を勢いよく開けて中に入ってきた瞬間だった。
「へ?」
右手を高く上げたままのポーズでエドはきょとんとした。ぱちくりとその大きな金色の目を瞬かせる。
その瞬間。
足元から青白い光がエドの姿を包み込んだ。
どうにかする余裕などなかった。
エドがとっさに顔を覆い、目を見開いたのが辛うじて見えた。
ぼふんっ!
白い煙がエドの小さな身体を一瞬にして覆い隠す。
もうもうと、部屋中に煙が立ち込める。
「兄さん…兄さん!!」
アルはすぐさま、煙の中に消えたエドの姿を確かめようと立ち上がった。ガシャガシャと鎧が鳴る。
アルの足元には、白いチョークで床いっぱいに錬成陣が描かれていた。その中へ、エドは足を踏み入れてしまったのだ。
普通、錬成途中に別のものが入ると錬成は失敗し、リバウンドとして術者に跳ね返ってくる場合もある。それがなかったということは、錬成が成功したのだろうか。でも、もし成功してしまっているのなら、兄は一体どうなってしまったのか!
鎧の身体でアルは息を飲み、ないはずの心臓がどきどきと早鐘を打ち鳴らすのを感じていた。
立ち込めていた煙が、ようやく晴れ始める。
次第にその真中にあったものの姿が分かってくる。
金色の髪と、赤いコート!
ほっとアルは胸を撫で下ろした。
が。
「げっほ、げほっ!ったくなんだよおい!」
聞こえてきた声が、なんだかいつもよりちょっと高いような。
いや、それは気のせいだ。きっと煙のせいで兄さんが喉をやられただけなんだ。
そう、一生懸命アルは思い込もうとした。
なのに。
晴れていく煙の向こうに、どんどん正確な光景が見え始めていた。
それは、アルの兄、エドワード=エルリックだった。確かに、そのままの姿をしていた。ただし、いつもの半分くらいしかない身長で、いつも着ている赤いコートをずるずると床に引きずってさえいなければ!
「に…兄さん……」
アルの声が引きつった。
「どうしたんだ、アル?」
いまだげほげほと咳き込み、いつもよりも3割増し位高くて幼い声でエドはたずねた。煙が目に染みたのかうっすらと目を潤ませて、いつもよりもでかく感じるだろうアルを見上げて首を傾げる。
ああ、どうしよう。大変なことになってしまった。
アルは思わず頭を抱えた。
「だからアル、どうしたんだって!なんかいつもよりでかく見えるのと何か関係あるのかよ!」
自分のことを無視して頭を悩ませるアルに、未だに何が起こったのか理解していない様子で、エドは抗議する。
エドに足元でうろちょろされて、普通だったらきっと何らかの反応があっただろうに、不幸なのか幸いなのか、その抗議にアルは気付かなかった。
ああ、どうすればいいんだ。兄さんが兄さんが!
頭を抱えて、アルは唸っていた。だが、どう考えても答えは出てこない。
そのとき、反応のないアルにむくれたエドが、ふと何かに気が付いたようにアルの足元から離れた。
エドの視線は、錬成陣の真ん中にあったもう一つのモノにくぎ付けにされていた。
そこにあったのは人形だった。
しかも、今のエドの姿とそっくり同じの実物大の人形!
「アル…」
エドの顔が引きつった。
「どーいうことだおい」
アルを再び振り返る。幼いながらもドスのきいいた声だ。
だが、やっぱりアルは頭を抱えて唸っていた。
「アル!!!」
「ごめんなさい兄さん~~~っっっ!!!!!」
一見かみ合っているように見えたこのやり取り。実は全くかみ合っていない。
エドが怒鳴ってもアルは自分の思考の只中にあった。
結局、この2人の会話がかみ合ったのは、それから1時間あまり後のことであった。
「兄さん危ない!!」
アルの絶叫が部屋の中に響き渡ったのは、エドが部屋の扉を勢いよく開けて中に入ってきた瞬間だった。
「へ?」
右手を高く上げたままのポーズでエドはきょとんとした。ぱちくりとその大きな金色の目を瞬かせる。
その瞬間。
足元から青白い光がエドの姿を包み込んだ。
どうにかする余裕などなかった。
エドがとっさに顔を覆い、目を見開いたのが辛うじて見えた。
ぼふんっ!
白い煙がエドの小さな身体を一瞬にして覆い隠す。
もうもうと、部屋中に煙が立ち込める。
「兄さん…兄さん!!」
アルはすぐさま、煙の中に消えたエドの姿を確かめようと立ち上がった。ガシャガシャと鎧が鳴る。
アルの足元には、白いチョークで床いっぱいに錬成陣が描かれていた。その中へ、エドは足を踏み入れてしまったのだ。
普通、錬成途中に別のものが入ると錬成は失敗し、リバウンドとして術者に跳ね返ってくる場合もある。それがなかったということは、錬成が成功したのだろうか。でも、もし成功してしまっているのなら、兄は一体どうなってしまったのか!
鎧の身体でアルは息を飲み、ないはずの心臓がどきどきと早鐘を打ち鳴らすのを感じていた。
立ち込めていた煙が、ようやく晴れ始める。
次第にその真中にあったものの姿が分かってくる。
金色の髪と、赤いコート!
ほっとアルは胸を撫で下ろした。
が。
「げっほ、げほっ!ったくなんだよおい!」
聞こえてきた声が、なんだかいつもよりちょっと高いような。
いや、それは気のせいだ。きっと煙のせいで兄さんが喉をやられただけなんだ。
そう、一生懸命アルは思い込もうとした。
なのに。
晴れていく煙の向こうに、どんどん正確な光景が見え始めていた。
それは、アルの兄、エドワード=エルリックだった。確かに、そのままの姿をしていた。ただし、いつもの半分くらいしかない身長で、いつも着ている赤いコートをずるずると床に引きずってさえいなければ!
「に…兄さん……」
アルの声が引きつった。
「どうしたんだ、アル?」
いまだげほげほと咳き込み、いつもよりも3割増し位高くて幼い声でエドはたずねた。煙が目に染みたのかうっすらと目を潤ませて、いつもよりもでかく感じるだろうアルを見上げて首を傾げる。
ああ、どうしよう。大変なことになってしまった。
アルは思わず頭を抱えた。
「だからアル、どうしたんだって!なんかいつもよりでかく見えるのと何か関係あるのかよ!」
自分のことを無視して頭を悩ませるアルに、未だに何が起こったのか理解していない様子で、エドは抗議する。
エドに足元でうろちょろされて、普通だったらきっと何らかの反応があっただろうに、不幸なのか幸いなのか、その抗議にアルは気付かなかった。
ああ、どうすればいいんだ。兄さんが兄さんが!
頭を抱えて、アルは唸っていた。だが、どう考えても答えは出てこない。
そのとき、反応のないアルにむくれたエドが、ふと何かに気が付いたようにアルの足元から離れた。
エドの視線は、錬成陣の真ん中にあったもう一つのモノにくぎ付けにされていた。
そこにあったのは人形だった。
しかも、今のエドの姿とそっくり同じの実物大の人形!
「アル…」
エドの顔が引きつった。
「どーいうことだおい」
アルを再び振り返る。幼いながらもドスのきいいた声だ。
だが、やっぱりアルは頭を抱えて唸っていた。
「アル!!!」
「ごめんなさい兄さん~~~っっっ!!!!!」
一見かみ合っているように見えたこのやり取り。実は全くかみ合っていない。
エドが怒鳴ってもアルは自分の思考の只中にあった。
結局、この2人の会話がかみ合ったのは、それから1時間あまり後のことであった。