二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

改・スタイルズ荘の怪事件

INDEX|35ページ/56ページ|

次のページ前のページ
 

屋敷の人々の目は、まだどこか虚ろで、自分たちが置かれた現実に対応出来ていない様子だった。たぶん、自分たちが物語の中にいるような気分なのだろう。
「それもあながち間違ってはいないがね。」
ポアロはわたしに聞こえる声で小さく囁くと、わたしにこの場を仕切るように命じた。確かにクメルよりはわたしの方が適任ではあるが、少しばかり意外ではあった。やはり本当に具合が悪いのかもしれない。集まりを仕切るのがサマーヘイではなく、わたしであることの方にみんなは驚いた様子だった。
「みなさんここにお集まりいただいたのにはわけがあります、それはミスター・アルフレッド・イングルソープに関わることです。」
背後のポアロが台詞を教えてくれるが、自分でも悲しいくらいの棒読みだった。名前を挙げられたイングルソープの方も、暗黙裡の内に隅の席に遠ざけられて気が緩んでいたのか妙に反応が大きかった。
滑稽。ポアロの細い指が、わたしの背中にそう書いている。
「ミスター・イングルソープ、この屋敷には暗い影が落ちていると思いませんか?」
イングルソープは悲劇役者のように首を重々しく振った。
「わたしの、かわいそうなエミリー。何でこんなことに。」
「あなたはまるで自分の立場を理解していないようですね。」
わたしの口から出た忠告にも、アルフレッドはピンと来ない様子だ。
「それはどういうことです?」
アドリブで、彼にショックを与えられるよう工夫を凝らしてみる。
「つまり、あなたには──妻を毒殺した嫌疑がかかっているということですよ!」
狙いは成功したようで、アルフレッドは立ち上がってこちらを怒りの目で睨んできた。
「わたしが、このわたしが彼女を殺しただと!お前には人の心というものがないのか」
「あなたのような紳士が、自分の検死審問での発言の意味を理解していないとは意外です。あなたの証言は不利な証拠になるんですよ。それでもまだ、証言を拒否するおつもりですか?」
アルフレッドは奇怪な声をあげて、椅子に座り込むと、両手で顔をおおった。今回は狼に変身したりはしないようだ。
それを見てか、ポアロは鋭くわたしに追撃を命じた。
「話なさい!」
わたしの顔を指越しに覗いた後、アルフレッドは小さく首を振った。
「話すつもりはないと?」
「ええ、私は私の無罪を知っていますから。」
「それではわたしが話しましょう。」
アルフレッドは再度弾かれたように立ち上がった。
「お前が?何故お前が知っているんだ?」
ポアロはその問いを鼻で笑った。そして慈愛を垂れる聖者のように、彼の無罪を証明してみせた。
「ここはミスター・ヘイスティングズに代わって、ボクがお話しましょう。聞いてください。ミスター・イングルソープは月曜の六時ごろ、牧場でとある女性と親密な交際を営んでいたという証拠があります。その時間に牧場に行くミスター・イングルソープを見たという証言を五人ほどから採取しました。毎週のことだったようで、彼らはしっかりと顔を覚えていましたよ。あの牧場から薬局までの距離を考えると、たとえ車を使おうと狼になるとミスター・メースが証言した時間に薬を買うことは出来ません。」