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改・スタイルズ荘の怪事件

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「確か英国には禁輸のはずだが。一つあるんだ、二つないと考えてはいけない理由もないだろう。」
「一体誰がこれを収納箱に入れたんでしょうね。」
ポアロは吐き捨てるように言った。
「機知がきくやつさ。小憎たらしいほどにね。」
こちらをじっと見つめると、彼女は更にぽつりともらした。
「味方を作らないといけないね。」
「わたしでは不足ですか?」
「ある意味では、そういうことだ。」
顔にこそ出さなかったと思うが、その言葉はわたしの矜持を酷く傷つけた。ポアロはそれを敏感に察して鼻で笑い飛ばした。
「ある意味と言っただろう。君は自分が神にでもなったつもりかい。屋敷の人間にしか協力出来ないことだってあるだろう。」
「ジョンはどうですか?」
「彼はちょっとな。」
「確かに腹芸が出来る男ではありませんが、信用は出来ますよ。」
ポアロはこちらの提案を五月蝿げに退けると、屋根裏から下りていってしまった。
「おや、ミス・ハワードじゃないか。アルフレッドの件で、彼女にどう思われているかは微妙なところだが、彼女を味方に出来れば言うことなしだ。」
ホールを歩いていたエヴィに話しかけると、わたしたちは空き部屋へと移動した。空室にも関わらず部屋は清潔そのもので、かつて文化女中器が大ヒットした理由が察せられた。
「何の用。」
エヴィの口調はいつもと変わらないが、迷惑だと思っていることは何となく伝わってくる。
「覚えていらっしゃいますか?この前、お力を借りたいとボクが言ったのを。」
「もちろん。あの悪魔を死刑台に送れるなら。幾らでも。」
ポアロはじっとエヴィを見つめた。
「ミス・ハワード、ひとつお聞きしたい。どうか正直に答えて下さい。」
「嘘はつかない。」
「お聞きしたいことは一つです。あなたは、ミスター・イングルソープ以外に、夫人を殺した犯人がいると考えたことはありませんか?」
その問いに彼女はきつい声で問い返した。
「どういう意味。」
「では質問を変えましょう。あなたはこれまで心の底からミスター・イングルソープが夫人を殺した罪の全てを背負っていると確信したことがありましたか?」
エヴィは目を見開くと、一つ深呼吸をした。
「何度も言った。あれは悪党。彼はエミリーの命取りになると。」
「ボクもそう思いますよ。ところでミス・ハワード、ヘイスティングズから聞いたのですが、あなたは愛する人が殺されたら直感的に犯人が分かると言ったそうですね?」
「覚えている。考えは変わらない。馬鹿にされても。」
「馬鹿にするなんてとんでもない。」
「アルフレッドが犯人。これがわたしの直感。」
ポアロは相手に言い聞かせるようにゆっくりと首を振った。
「そうではありません。あなたの直感はミスター・イングルソープが犯人だと教えてはいないはずです。」
「えっ?」
「あなたは彼が犯人だと信じたがっているだけです。それが必然なのだと。しかし、あなたの直感は別の人間を指し示しているはずだ。」
エヴィはその言葉に両手で顔を覆った。
「やめて。やめて。そんなはずがない。そんなことありえない。」
「これ以上は何も聞きませんよ。わたしが思っていた通りだと分かりましたからね。」
「当てにしないで。わたしは無力。どうしようもなく。」
「それはあなたが決めることだ。そうですね、一つだけお願いしたいことがあります。」
「何?」
「目を光らせておいて下さい。如何なる状況も見逃さないように。」
「いっそ目をつぶってしまった方が──」
「ミス・ハワード、それはあなたらしくありませんね。」
わたしにはエヴィに優しく語りかけるポアロが、悪魔そのものに思えてならなかった。あるいは両者とも悪魔なのだろうか。理由もなくわたしはそんなことを思った。
「そう。わたしはエヴリン・ハワード。自分の正義を裏切らない。どんな代償を払っても。」
彼女は毅然と顔を上げると、そう宣言して部屋から出ていった。
「これで貴重な味方が出来た。ヘイスティングズ、彼女は実に素晴らしい人物だよ。」
こういう風に他人を褒めるのは、ポアロらしくない振る舞いである。わたしは全く反応を返さなかったが、彼女は気にせず喋り続けた。
「直感は素晴らしいね。ときに理屈無しで理屈を掴めるのだから。」
わたしは意識して冷たい声音を発した。
「わたしには貴方達の会話が呪文のように聞こえましたよ。」
「なに?本当かい、わが相棒【モナミ】」
「ええ、説明して頂けるんですか?」
ポアロはきっぱりと首を振った。
「そもそも説明するようなことじゃないんだ。君が自分で分からなければいけないんだよ。」
「そんな、どうしてです?」
「これは分かち合うものではないからさ。」
「エヴィとは分かち合えても、わたしとは分かち合えないというわけですか。」
「別に隠しているわけじゃない。ボクが知っていることは、その気になれば、きみも知ることが出来る。あとは推理の問題なんだ。」
「ヒントだけでも貰えませんか?」
ポアロは真剣な顔でこちらを見ると、また首を振った。
「いいかい。君には直感が足りない。」
「今必要なのは知性でしょう。」
わたしは悔し紛れに言った。
「直感に支えられない知性なんて、この世界では無意味だよ。」
ポアロは急に範囲を拡大して、全てをうやむやにしてしまった。わたしは釈然としなかったが、それ以上は何も言わなかった。今度、何か発見をしたら、土壇場まで秘密にしてポアロの鼻をあかしてやろうとは思っていたが。