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改・スタイルズ荘の怪事件

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「人聞きが悪いな。互恵関係と言えよ。二十年ほど、予定を超過して胎の中に居座ったのは事実だが、母から過ぎ去っていく才を俺が補っていた面もあるんだ。結局、状況に任せたのさ。俺の存在を周知させると、色々と煩雑でもあったしな。」
二十年。さらりと条理に反する発言をしながら彼は笑っていた。統合政府は全てを承知の上で、彼を「メディナ」に選んだのだ。わたしに何かを言う権限などありはしないだろう。
【ジョンはどうなるんだい。彼とそっくりの息子が亡命のときに死んだと記憶されているわけだけど。】
「彼は亡命のときにも死んだと言えば、分かってもらえるかな。」
【ジョンは共和国【リ・パブリック】の狙いを逸らすための囮だったわけだ。】
わたしの記憶野には、夫人が亡命した当時、共和国欧州第八師団【グレッグ・イーガン】が原因不明のバイオハザードの結果、壊滅したという記録が存在していた。
「それは考え方の違いだ。君がそう思うのは勝手だが、俺は彼がジョンだと思っているし、次の彼だって同じくジョンだ。俺たちはいつだって三人家族だからね。」
【惨いことを。】
「御同類が何を言ってるんだか。さて、三つ目の疑問には君が答えるのが相応しいだろう。何せ君は、この分野の権威だから。」
彼が指をこすると、瞬時に轟音と機械群は余韻すら残さずどこに消えてしまった。わたしの空間把握をもってすれば、もはや位置関係を見失うことはないが、大陸でも一部でしかお目にかかれない完璧な遮蔽である。
【教義に寄るなら、「探偵」の歴史は堕神から始まる。】
「神か。実際は、テラフォーミング技術の軍事転用によって引き起こされた惑星規模の人災に過ぎないが、人間は忘れる生き物だからな。。」
【テラフォーミング技術、ね。】
「偉大な先達の言葉に何か不満でも?」
【超越者【ホモ・メタテクストゥス】を用いた世界線【コンテクスト】の移植なんてオカルトを、技術と呼ぶのは貴方たちだけでしょう。】
わたしの言葉に、彼は苦笑しながら言葉を返した。
「技術だよ、当時の俺たちがそう定義したんだから。結果として、オカルトを産んだのは否定しないがね。現在も、あの馬鹿馬鹿しい書物たちが絶対の法則の面をして、この世界を闊歩している。悪夢だよ。喜劇でもあるがね。」
【そうかな?法則さえ把握すれば、殺すのも殺させるのも自由自在だ。これほど統治者に都合のいい代物もありはしないと思うけど。】
「あえて反論はしないよ。俺たちは統合政府を追われた。かつて世界には無限の可能性があった。それだけの話だ。」
【あえて反論はしないよ。今はね。】
「残りはお楽しみの後というわけだ。情報の開示はこの程度で問題無いかな。」
【ご協力感謝しますよ。】
「かまわないさ。俺の人生はこの時のためにあったのかもしれないのだから。では気を取り直そう。
「残念だが、君が出てきたところで、この局面は変えられない。何せ、これは「最初で最後の事件」だからね。」
【確かに、それがわたしを蝕む最大の呪いだった。『スタイルズ荘の怪事件』をもって行われる『カーテン』のバリエーション。その事件の形そのものが、銘探偵としてのわたしにとって死刑宣告書にも等しかったからだ。ところで、ポアロの死亡判定は通ったのかい?】
「通したくは無かったがね。どうやって入れさせたかは知らないが、カフェインすら一滴も入っていないコーヒーを飲みながら、プログラムを強制終了されてはね。かの探偵の死因からして、これを探偵の退場と解釈しなければ、事件そのものが崩壊してしまう。」
【そして、生き残ったヘイスティングズは真相を知るというわけだ。】
「だが、そこまでだよ。カーテンは閉じ、残ったのは二つの事件の中に銘をもたない君だけだ。どう足掻こうと、無銘【モブ】の身では、こちら側に傷一つ負わせられない。」
彼はわざとらしいくらい傲慢な口調で宣言した。最後まで、ありがたいことである。
わたしは何も言わずに、一枚の布切れを彼に投げつけた。もしも、彼が凡人であったなら、それは驚愕の出来事だっただろう。何せ、彼の前言が正しければ、それは絶対に命中するはずのないものだったからだ。
「な ん だ と。」
【その付き合いの良さを、統合政府にも使えないものなのかい?】
「ボクたちからすると、ノリが悪いのは君たちの方なんだがね。」
【君たちのノリに合わせたら、世界がもたないじゃないか。】
「懐かしいな、その議論。そこは平行線だろうね。」
彼はそう言うと席を立った。英雄【アルゴノイタイ】において、平行線などというものは存在しないのである。わたしも相手にならって立ち上がると、改めて言葉を発した。
【それは「挑戦状」だよ。】
驚愕。そこから憎悪へと色鮮やかに変じていくところも含めて、彼の表情は見事の一言だった。
「九つ児【ナイン】か、まったく余計なことを。あの出来損ないに、いくら積んだ?」
【彼らからの招待を受けただけさ。】
自嘲ぎみにわたしは言った。
「そいつは何というか。ご愁傷様。」
【やめてくれよ。素で言われるとテンションが下がるじゃないか。】
「俺に殺された方が君のためだと思うがね。」
【残念だが、わたしは自分のために生きているわけではないんだ。】
「下らない生だ。」
【上等な生など、この世界には存在しない。】
わたしは「挑戦状」を展開した。