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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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沖田は言った。古代は目をパチパチさせた。一体全体、何を言われているのやら。

「え、ええ、まあ……」

「この〈ヤマト〉もまた子を救うためにある船だ。今日この船で、コスモナイトをお前が運んでいると知ると、何人もがお前のために命を投げ出そうとした。それもまた、地球にいる億の子供のためなのだ。お前でなくて子を救うためにみんなが死のうとしたのだ」

「え、ええ、まあ……」

「これはそういう戦争だ。ひとりが死ぬと、他が必ず、オレも死なねば仲間に申し訳ないと言う。そうしてふたり三人と死ねば、オレもオレもと後に続くことになる……だがこの〈ヤマト〉に欠けたクルーの補充は利かん」

それは、と思った。ワープが可能で太陽系をまだ出ていない今ならば、一度地球に戻るのもできなくないはずではあった。クルーを補充しコスモナイトを積み直しても、また数日のロスを出すだけ――いや、遅れればそのたびに、何百万もの女が子を産めなくなり、何十万もの白血病にかかる子供を出すことになるが――しかし、本当の問題はそんなことではないのもわかる。この旅は、途中の一時帰還が許されるものではあり得ない。

「お前の兄のように」

言って沖田は顔を背(そむ)けた。しかし一瞬、その目に涙が浮かんだらしいのが古代に見えた。

「わしはこの戦争で多くの若い者を死なせた。古代、お前にも死ねと命令せねばならなくなるかもしれん。だがな、勝手を言ってすまん……それまでは、生きていてほしいのだ。わしが死ぬなと言ううちは、生きることを考えてくれ」

もう『はい』とか『いいえ』とも応えることができなかった。古代はただ窓の宇宙に眼を向ける沖田の背を見て立っていた。

「この船に無駄に死なせていいクルーはひとりもいないのだ。だからあのとき、わしはお前にコスモナイトを捨てろと言った」

「はい……」

「命令は届かなかったようだがな。だがいい。実戦の場において、命令すれば事が必ずその通り成し遂げられるというものでないのはよくわかっている。思い通りにいくことなどむしろひとつもないのだとな。だから、今日のことは問わん」

沖田は言った。

「以上だ。退がれ」