敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
機関室
「間違いなくあと数時間で敵が来るものと思われる。ここは艦長の言われるように、すぐに〈ヤマト〉を発進させる以外にない」
と技師長である真田志郎は言った。あの後にいくばくかの睡眠を取って、多少は体を回復させている。
宇宙戦艦〈ヤマト〉機関室。真田は機関長の徳川彦左衛門ほか、多くの者達を前にしていた。横でカメラを回している技術部門の人間もいる。全員が放射能防護服を着込んでいた。
真田がいま手にしているのは、古代進が運んできたカプセル。しかし今では、古代進がタマゴの黄身のように思った内部の丸い物体が赤い光を発している。
「〈コア〉に〈火〉を入れた」真田が言った。「もうこいつを止めることはできない」
徳川が言う。「これが波動エネルギーの源だというわけだな」
「はい。一度〈火〉を点けたら、速やかに炉に納めなければならない。そして釜の口を閉じたら、二度と取り出すことはできない。この物体を直に見るのはこれが最後です」
彼らのすぐ前にある船のメインエンジンは、まるで巨大な原子炉を横倒しにしたようなものだった。あるいは、大昔の蒸気機関車を何倍にもしたような……真田はその中に入り、銀行の大金庫のような扉を開けてカプセルを納めるべきところに入れた。そのようすをカメラを持つ技術部員が動画に収める。また、真田の防護服にも、頭の横にカメラが取り付けられてピントや絞りを動かしていた。
技術者や機関員らが、モニター画面でその作業を見届ける。後ろで数名の保安部員がサブマシンガンをいつでも撃てるように手にして全員を見張っていた。もし万が一この中に狂信的宗教の信者がまぎれ込んでいて、地球人類を滅ぼせば自分は神のもとに行ける、などと考えていたりするならば、今がその目的を遂げるチャンスなのだ。真田の手からカプセルをひったくればいい。それで地球は太陽系ごとこの宇宙から消滅する。
あるいは、保安部員の中に、ガミラスのスパイがいるかもしれない。もしくは、当の真田自身が精神に異常をきたして――万が一どころか、兆にひとつの可能性まで考慮して準備を重ねたうえで、全員がこの場に臨んでいた。
ゆえに、作業が果たされるのを確かに画面で見届けて、真田が庫から出てきたときは一同がホッと肩を下ろした。放射能防護服越しでもそれがよくわかるほどだった。保安部員らも構えた銃の銃口を下ろす。
「さて、エンジンが力を出すまで六時間はかかると見られる。敵の心配は他に任せるとして、我々が取り組むべきは出力を上げていけるかどうかだ。莫大な外部電力を必要とするわけだが……」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之