敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
艦長室
沖田十三は宇宙戦艦〈ヤマト〉艦長室で、画面に映る無数の顔と向き合わされていた。〈彼ら〉は沖田はそっちのけで、自分達の議論に夢中になっている。
『だから〈コア〉を輸送機でそのまま運ばせるべきではなかったのだ!』
『それがいちばん早かったのだから仕方があるまい。今更それを言ってどうする』
『「早かった」だと! 結局、〈コア〉を調べる時間はなくなってしまったではないか。これでは急いだ意味がない!』
『いや、元々イスカンダルの使者が生きて着いていた場合、我らに〈コア〉を調べさせてくれたとは思えん。逃亡船を造らせてくれるつもりはないようだからな』
『だから最初の申し出で……』
『それを言うな』
『やはり〈七四式〉なんかで直接持って来さすのでなく、火星へ行かせ……』
『いいや。やつらは基地を爆撃するだけでなく、同時に〈七四式〉も襲ったという。短時間に二重の手を打ってきたのだ。もっと時間を与えていたら、どれだけ多くの手を出されていたかわからん』
『フン。沖縄基地を殺られた責任逃れのつもりか』
『タラレバを言ってどうなるという話をしてるんだ! 〈サーシャの船〉が追われた時点で、我々に時間などはなくなっていたのだ。〈ヤマト〉に〈コア〉が届いただけでも良しとするべきではないのか!』
沖田に発言権はない。怒鳴り合う者達の声を、座って聞かされるままだ。
『この期に及んでこんな会議は不毛だとは思わんのか!』
『きのうまでとは状況が違う!』
『いいや、同じだ! どのみち〈コア〉を二日や三日調べたところでどうなるわけもなかったのだからな!』
『それは貴様の思い込みだろう!』
『貴様こそなんの根拠があって!』
『まあ待て! こうなったからにはだな、わたしが前から言ってる案を採ってみてはどうなのかな。つまり、〈ヤマト〉の波動砲で冥王星を吹き飛ばしてから、イスカンダルに行くのでなく地球に戻ってこさせるのだ。そして〈ヤマト〉を手本にしてワープ船の増船を図る――』
『フン。たった半年くらいでそれができると思ってるのか』
『それに〈ヤマト〉一隻で冥王星を叩くのは無理だ。たとえ波動砲でもな。仮に星は吹き飛ばせても、その後、艦隊に取り巻かれ〈ヤマト〉は沈められてしまうよ』
『しかしそれではなんのために波動砲を積ませたかわからん』
『それでも〈ヤマト〉を戻すことはできん。「エリートだけが逃げようとしてる」と民衆に叫ばせるだけだ。実際そうだったから、ああして床を傾けたまま船を造っていたのだからな』
『その通りだ。やはり〈ヤマト〉はイスカンダルに向かわすしかない……』
『しかしそれは非現実的だ!』
『だからそれをこの期に及んで言ってどうすると言ってるんだ!』
『どうだろう。こうなったら何日か船の発進を遅らせて、〈コア〉をじっくり調べるというのは……』
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之