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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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波動砲



〈波動砲〉――それは数十年前に地球で波動理論が発見されたとき、副産物として提唱された装置だった。本来は外宇宙を超光速で旅するための波動理論。しかしそれは、当然のように軍事研究の対象になった。応用すれば星をも壊せる兵器が造れる――〈そんなの造ってどうするのか〉という疑問を持つ人間は、あまり偉くなることはできない。

それにひとつ、有用な使用目的があったのだ。もしも地球に巨大な隕石が落ちるとき、それを事前に破壊する装置になりうるではないか。その昔に恐竜を絶滅させたと言われるような山より大きなシロモノは一億年に一度かもしれない。だが〈丘〉のサイズなら、いつやってきてもおかしくない。それで充分、日本に落ちれば日本は消えてなくなるのだから、あながち杞憂(きゆう)と呼ぶわけにいかない。隕石もそのくらいの大きさになると、核を使ってもどうにもならない――ふたつに割ってもふたつの大きな固まりが地球に落ちるだけなのだ。

だからそのとき、完全に粉砕できる装置があれば憂(うれ)いなしというものだろう。これは〈砲〉と呼んだところでさすがに他の使い道はないだろうと考えられた。むろんテロリストやローグ(ならずもの)国家の手に渡ることがないように気を配らねばならないが、連中にしてもこれは途方もなさ過ぎてやはり手に余るのじゃないか――そう思われたのである。

まあ、無理に考えれば、地球の上に巨大なスペース・コロニーのようなものを浮かべるとして、それを撃つという用途くらいか。しかしもっと小さな武器でも穴を開ければ中の人間はみな死ぬのだし、万一そのコロニーが地球に落下するような場合、それを事前に破壊する手段が必要になるはずだ――と言うより、もしも軌道を外れたときに落ちる前に壊せないなら、あまりに巨大な建造物を宇宙に浮かべてはいけない。

とにかく、巨大な物体が地球に落ちるのを防ぐ装置――こんな理屈で波動砲の研究は大多数の人々から正当なものと支持された。むろん反対意見もあったが、それらはどれも『それは禁断のメギドの火だ』とか『浮遊物体も大いなる宇宙の自然の一部。人が壊してはいけない』といった気の触れたもので、マトモな人間が相手にすることはなかった。

かくして巨費が注ぎ込まれることになった。十年前に予備的な実験が行われ、一応の成果を上げるに至った。そこへガミラスの出現だ。これによって波動砲の研究は、別の目的を持つことになった。

準惑星に潜むガミラス。それを根こそぎにできない限り、地球人類に明日はない。何よりも本拠地となる冥王星だ。〈プルート〉と名前のついたこの犬をもしも丸ごと宇宙の塵に変えることができたなら、かつての太平洋戦争におけるミッドウェイの故事のように、一気に地球が有利に立てる。その後はもはや別のグーフィーとかスヌーピーとか、チャーリー・ブラウンだとかいった丸頭の向こうに隠れさせはしない。このままでは人類が滅亡するというときに、星のひとつを壊してはいけないと言う人間がいるならば、それは完全な狂人だろう。

宇宙戦艦〈ヤマト〉を建造することは、波動砲搭載艦を建造することだった。波動砲は波動エンジンが生み出す力を糧(かて)とする。政府の官僚や軍の幕僚には、イスカンダルに遣るよりも冥王星を砕くことを〈ヤマト〉に期待する者がいた。その者達の胸にあるのは、一部の者だけが地球を捨てて逃げることにあるのだが……。

いずれにせよ、〈ヤマト〉が完成すると同時に波動砲もまた完成した。それは艦首に搭載され、砲口のみが正面に大穴を覗かせている。言わば〈ヤマト〉は船そのものが巨大な大砲なのでもあった。その試射が今、地球の上、まだ決して高くはない軌道で行われようとしている――。