敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
任務
「古代一尉。あなたには、コスモナイトの鉱石を〈ゼロ〉で運んでいただきます」
〈ヤマト〉第二艦橋で新見が言った。艦長の沖田もブリーフィングに同席している。そして、古代・山本と森の他に、採掘を行う技術科員。
「作戦はこうです。土星軌道で砲や魚雷の試射を行い、同時に〈ヤマト〉から二機をタイタンに向けて送り出す。一機は鉱石採掘のための工員と機械を載せた揚陸艇。もう一機が〈コスモゼロ〉です。〈ゼロ〉にはミサイルや爆弾の懸架装置が多数備わっていますから、筒状の形であるなら1G下で最大10トンの物を運ぶことができます」
新見は立体ディスプレイに図解を示してみせた。タイタンで石を切り出して、さっき食べたカレーライスの具のような太鼓型に整える。で、二本の大きなソーセージのような容器に納め入れ、〈ゼロ〉の左右の翼の下に吊り下げる。古代の役はそれを〈ヤマト〉に運ぶことだ。
「〈ゼロ〉の推力をもってすればなんの問題もないはずなので、備蓄を考え必要量の倍を採掘することにしました。貨物ポッドは工場ですぐ作れるということです」
「おう、任しといてくれ」
と、採掘チームのリーダーとなる男が言った。斎藤副技師長。古代はその顔を見て、自分が例のカプセルを床の傾いたあの部屋で真田という男に渡したときに、この男が一緒にいて横で見ていたのを思い出した。科学者とか技師とか言うよりまさに鉱石か石油でも採掘するのが仕事の荒くれ技術士といった感じの風貌だ。
「どうかしら、航空隊長」森が言った。「荷物運びは確か専門のはずだったわね?」
「はい」
と古代は応えながら、つっかかるものの言い方する女だな、と思った。おれに対してだけなんだろうか。だろうな。おれが〈がんもどき〉でガミラスのステルス三機を墜とした話を嘘だと決めつけてるんだろう。それが当たり前なのにも違いない。
「できると思います」
また新見が、「それから山本三尉。あなたには、揚陸艇の操縦をお願いします。問題ありませんね?」
「はい」
と山本。新見は続けて、
「古代一尉は貨物ポッドを降ろしたら、訓練プログラムに沿って〈ゼロ〉を飛ばしてもらいます。その後、採掘場に戻り、ポッドを積んで〈ヤマト〉に帰投。兵装テストが終わる頃には、すべて完了する見込みです」
沖田が言う。「いいだろう、それで行く」
「ええと、それからもうひとつ」と、また新見が言った。「土星では、この二機以外の有人機は〈ヤマト〉から外に出しません。やはり土星に近づく自体が危険ですので、〈タイガー〉を何機も出して後の収容に手間取るようなことは避けねばなりません。〈ヤマト〉はワープでいつでもすぐに逃げられるようにしておかなければならないのです」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之