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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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ひょっとすると、その結果として〈ヤマト〉船務長という今の自分があるのかもしれない。なのに今、このタイタンで写真を撮る他、特に何もすることがない。森は周囲を見渡した。山があり、湖がある。すべてオレンジ一色(いっしょく)だ。

人は地球の青い海、緑の山をまた見たいと言う。しかし自分は、どちらも見たことがない。わたしはこれで地球人と言えるんだろうか。

覚えているのは、ただ道に家が並んでいる光景だけだ。門をくぐって、ドアが開いて、人が顔を覗かせる。まず母を見て、次に自分に眼を向けてくる。これは子なのかそれとも子の形をした変な実験生物なのか――その考えが文字として顔にクッキリ浮かんでいるのが自分にとっての一般的な地球人類というものだった。

その人類を救わねばならない。軍人として。〈ヤマト〉乗組員として。船務長の責を負う者として。

どういうわけかこれが望んだ道だった。父母のようにはなるまいとして、それにはこうあらねばと努めた末にここにいる。しかしどうして人類をわたしは救わねばならないのだ?

オレンジの空に青い点。古代の〈ゼロ〉が地平線に消えるのが見える。ひょっとして、あたしはあの男が羨ましいのかな、と思った。子供の頃は他の子達が羨ましかった。そこらにいる犬や猫が羨ましかった。手を引かれて道を歩かされながら、ずっとそんなものを見ていた。

そして空には鳥がいた。鳩や雀が飛んでいた。かつての地球の青い空だけは覚えている。あんなふうに空を飛べたらいいと思った。森は鳥達が羨ましかった。