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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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急行



『〈アルファー・ワン〉! 採掘チームが危険であるおそれが高い。すぐ現場に向かってくれ!』

通信器に相原の声。古代はそれに「了解」と応え、〈ゼロ〉を上昇させた。タイタンの厚い大気の中で速度は上げられない。一度宇宙に出る必要がある。

『なお、敵の艦隊が間もなく近くへワープしてくるものと見られる! そうなったら〈ヤマト〉は君達を待てない! 繰り返す。〈ヤマト〉は君達を待てない! 急いでくれ!』

「了解!」

〈ゼロ〉は上昇を続ける。地球の空なら高度30キロにもなれば周囲に星が広がるが、タイタンの大気層は何倍も厚い。星が見えてくるまでに何百キロも昇らねばならない。

やがて大気が青みを帯び、そして土星が見えてきた。タイタンの大気上層部だ。古代は機を水平にした。

後ろ髪を引かれる思いがなくはなかった。〈ゆきかぜ〉。あれは兄の船――ならばそこには冷たくなった兄の骸(むくろ)があるのではないか。それとも、そこにガミラスが巣くっていたと言うのなら――。

兄貴はどうなったんだ。ガミラスに標本にでもされちまったんじゃないのか。あのままになどしてはおけない――そうは思うが、そう言ってはいられぬこともわかっていた。この〈ゼロ〉には今、対空用のビームガンがあるだけだ。とても〈ゆきかぜ〉の装甲を撃ち抜くほどの力はない。

今はそれより、採掘チーム。そして山本とアナライザー……彼らを救けに行かねばならない。それがよくわかっていた。そしてあの、イヤな女だとは思うが、森とか言う船務長。

妙なものだ。至急救けに行けと言われて最初に思い浮かんだのがあの女の顔だった。

そしてまたひとり、別の女――サーシャ。あの脱出カプセルの中の息絶えていた遺体。収容して蘇生を試みてはみたが無駄だった。実際、ほとんど、どうすることもできなかった。

シミュレーターで〈ゼロ〉をどうにか操れるようになってから、ふと考えることがある。あのとき、おれが乗っていたのがあんな〈がんもどき〉などでなく、この〈ゼロ〉のような戦闘機なら、〈彼女〉を救えたのではないか、と――それは考えるだけ無駄だというのもよくわかっていることだ。物事はそんな単純なものでなく、タラレバを言ってどうなるというものでもない。やつらはあのとき、間違いなく、おれをグーニーバードと侮っていた。荷物運びの〈間抜けな鳥〉と。だからその隙も突けたのだ。戦闘機なら楽に勝てたとか、必ず〈彼女〉を救えたというものでもない。

だが、と思う。それでも、と思う。おれががんもどきでなけりゃ、本当の航空隊長を死なせることも、沖縄基地の千人という人間を死なせることもなかったのでは? どうしても、古代はそんな考えに囚(とらわ)れずにいられなかった。

森とかいうあの女を救けなければと思うのはそのせいか? サーシャと沖縄を救えなかった代わりに、あの女を救けようと考えてるのか。わからない。思いは眼下に広がっているタイタンの大気のようにモヤモヤとする。しかし、とにかく、今はやらねばやらないことをするだけだ。

今のおれはあのときと違う。乗っているのは戦闘攻撃機〈コスモゼロ〉だ。ビームガンだけと言えども武装があり、大推力のエンジンがあり、高度な電子兵装がある。そのレーダーが何か捉えた。〈ゼロ〉の後方、千キロの遠く。何百キロもの高度を飛んでいるためにタイタンの丸みに遮られずに、こちらに向かってくる機影を画面の隅にさらしている。

そのスピード。〈ゼロ〉に引けを取らないのなら、ガミラスの戦闘機に違いなかった。数は十機か、それ以上。

やつらも今は空気の薄い超高空を飛んでいる。こちらが下へ飛び込めば、一気に詰めてくるだろう。追いつかれる前に採掘チームを救け、再び宇宙へ出るための時間はいくらもありはしない。

そうだ、と思った。それから例のなんとかいう金属の鉱石を詰めた貨物ポッド。おれはそいつをこの機体の下に吊って〈ヤマト〉に戻らねばならないはずだが――。

そんな時間の余裕があるのか? だが考える余裕自体が今はない。採掘チームのいる地点に近づいている。

古代は〈ゼロ〉の機首を下げ、タイタンのもやの中に飛び込んだ。