銀魂 −アインクラッド篇−
「行くぞ、茅場・・・ッ!!」
鋭い呼気と共に吐き出しながら、キリトは床を蹴った。茅場との間合いを詰めながら右手の剣を横薙ぎに繰り出す。
「ッ!」
「流石だ、キリト君。だが、まだ遅いよ」
茅場が左手の盾でそれを難なく受け止める。火花が散り、二人の顔を一瞬明るく照らす。金属がぶつかりあうその衝撃音が第二回戦の開始の合図だったとでも言うように、一気に加速した二人の剣戟が周囲の空間を厚した。
「キリト君っ・・・団長っ・・・」
「嬢ちゃんっ・・・くっ・・・大丈夫・・・か?」
「ギンさんっ!私は麻痺だけだから大丈夫だけど・・・それよりギンさんの身体が!」
「動けねぇだけかっ・・・ぐッ・・・う・・・」
キリトの変わりにアスナを守るべく銀時は足を引きずりながらなんとか彼女の元へと寄り添う。だが、精神的な疲労と体力に限界を迎えたためか木刀を構えたまま体勢を崩してしまった。
額から汗が止まることなく流れ落ち、HPバーも少しずつ自然治癒が開始し始めるもまだレッドゾーンのままであった。
「まだキリトの応援は・・・無理・・・か・・・」
「だ、駄目よギンさん!!とてもじゃないけどもうギンさんは戦える状態ではないわ!無理よ!!」
「あぁ、・・・ちょいとつまづいただけでもお陀仏になりそうだから洒落になんねー・・・待っていろキリト・・・HPが回復するまで辛抱してくれ・・・ッ!」
キリトは、今まで長い戦いの記憶の中で最もイレギュラーで、人間的な戦いをしていた。共同戦線のお陰でお互いの手の内を見せている。ましてや、茅場はこの世界の創造主。
つまり、それを意味するのは―――
(躊躇はしないッ!!最初から全力で立ち無かえッ!!)
「スターバースト・ストリームッ!!」
キリトの両手の剣は青白い光を輝かせ、茅場目掛けて振るい始めるも、その軌道を全ては知り尽くしていたかのように盾で全て防いでいく。
「はぁぁぁぁぁアアア゛ッッッ!!」
「無駄だ―――私には『全て』見える」
そして最後の十六連撃目を前に茅場はため息をしつつ右手の剣で弾き返し、左手の巨大な盾でキリトの身体を突き飛ばした。HPをほんの少し減らしつつも、突き飛ばされながら受身を取るように床に着地する。
(だ・・・駄目だッ!!俺の手の内を知っているのは予想通りだったが、ここまでだなんてッ!!スターバースト・ストリームですら止められるのであれば、それより下級のスキルは何一つ通用しないッ!!)
「・・・君の考えていることは理解できるよ。だが残念ながら君の得意技であるスターバースト・ストリーム、いや・・・その上位技であるジ・イクリプスは私に通用しない。それをメイキングしたのは私だからね」
―――それも予想の範囲内だ。
だから、ここからはシステム上に設定された連続技は一切使えない!使うだけ隙ができる!
アシストはいらない!俺の身体は俺が一番理解している!
神経を研ぎ澄ませ!
五感を活性化させろ!
茅場は、・・・いや!どんなプレイヤーだって静止の状態から次の行動に以降するときにほんのわずかな挙動が発生するはずだ!それを察知しろ!
指の動き・・・視線・・・空気の流れ・・・剣から漂う鉄の匂い・・・
・・・行けるッ!
「ッ・・・ほう」
「ぐッ!!・・・はぁァァァァアアア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!」
キリトは己の闘争本能が命ずるままに振り続ける。
集中し過ぎた為に呼吸すらまともに出来ない状態である。当然、システムのアシストは得られないが、限界まで加速された知覚に後押しされてか、両腕は通常時を軽く上回る速度で動く。キリトの目にすら、残像によって剣が数本、数十本にも見えるほどだった。だが―――。
「素晴らしい。だが、それでもまだ遅い」
「―――ッ!!」
茅場は、舌を巻くほどの正確さでキリトの攻撃を次々と叩き落とした。その合間にも、少しでもこちらに隙ができると鋭い一撃を浴びせてくる。それをキリトが瞬間的反応だけで迎撃する。局面は容易に動こうとしなかった。
「チッ・・・この身体させ動けば・・・おいイカロスッ!!息をしろッ!!酸欠でブッ倒れちまうぞ!!」
「茅場、やっぱあいつは強ぇよ・・・なのに、キリトくんはたった一人で・・・俺達大人は一体何やってんだ・・・ッ!くそッ!!」
「キリト軍曹、あの時より更に強く・・・この短期間で凄まじい成長だ」
少しでも敵の思考、反応を読もうと、キリトは茅場の両目に集中させた。二人の視線が交錯する。
不意に、キリトの背中をわずかな悪寒が走った。自分が今、相手にしているのは四千もの人間を殺してのけた男なのだ。はたしてそんなことが、人にできるものだろうか。四千人の死、四千人の怨念、その重圧を受け入れてなお正気を保っていられるなら―――それは、もう人間ではない。
―――怪物だ。
「ッ!!―――ウォ゛オ゛ぉぉぉォォォッッッ!!!!」
心の奥に生まれた、ごく小さな恐怖のかけらを吹き飛ばそうとするように絶叫する。更に両手の動きを加速させ、秒間何発もの攻撃を撃ち込むが、茅場の表情は変わらない。目にも留まらぬ速さで十字盾と長剣を操り、的確にキリトの攻撃を弾き返す。
(駄目だッ!剣が全然通らないッ!!)
―――もっとだ。もっと神経を研ぎ澄ませ!
茅場に一矢報いるにはまだ速さが足りないッ!
拳に力を入れすぎるなッ!正確に、的確な力量で奴のほんの少しの隙を見つけ出して―――
「私にそのような隙はないよ、キリト君」
「ッ!!う゛ッ・・・」
油断も隙も許されない命のやり取りの中で、茅場はキリトを弄ぶように己の剣を振るう。茅場の剣はキリトの右腹部を横切る。少しでも反応が遅ければその剣尖は自身の身体を突き抜けていたであろう。
茅場は、余裕なのか―――?
キリトは焦り始める。
防戦一方に見える茅場は、実はいつでも反撃を差し挟み、一撃を浴びせる余裕があるのではないのか。キリトの心には疑念が覆っていく。
(弄ばれてるッ!?くそッ・・・だったらこれで―――)
「バカ野郎がッ!!さっさと間合いをとれ!てめえがスキル放てば奴の思う壺だッ!!」
「ッ!!?ハッ!」
土方はキリトがソードスキルを使おうとする寸前に静止させ、警告された本人は後方の土方の元へと大きくジャンプし、茅場との距離を広める。
「ガハッ!!はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・ゲホゴホッ!・・・ゴホッ・・・」
(こ・・・呼吸がッ・・・苦しい・・・!だけど!今、身体を無理矢理にでも止めていなければ俺は・・・確実にやられていた・・・ッ!!)
悔しいが土方の言う通りだった。茅場にはソードスキルが一切通用しない。十分に理解していたはずだ。しかしそれを今、身体任せに使おうとした。使ったら最後、スキル後に硬直状態となり結果は言わずともゲームオーバーだ。
「感情任せに刀を振るうんじゃねぇ。イカロス、とにかく呼吸を整えろ。てめぇが焦ると奴に余裕が生まれる。どんなに強ぇ野郎にも必ず弱点があるはずだ。それを見出せ」
「簡単に言うなよッ・・・そんなことわかっているさ」
「今戦えるのはてめぇだけだ。てめぇがパルテナ様を守るんだろ?―――なあ、『キリト』」
「あっ・・・」
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w



