銀魂 −アインクラッド篇−
・・・
『ソードアート・オンライン』
・第五十五層 グランザム フィールド 迷宮区入口前
「ヅライデン?なんか変な名前だねっ!はははっ!」
「笑いたければ大いに笑うと良い。後で泣くことになると思うからな」
キリトは身体を起こして桂の隣に立つ。
ここにきて増援が来るのは正直ありがたかった。クレーターの外に立つレフティはおよそ2メートル下にいるキリト達を観察するかのようにしゃがみながら笑っている。
(あの外にはアスナがいるはず・・・だが、彼女を倒さない限りは近づけない!)
キリトは左右の剣を構え直し自身のHPバーを再確認。何度かダメージを受けたもののイエロー表示にはなっておらず、まだ万全に戦える状態だ。
「確か『桂』さんでしたっけ?・・・なんで、この場所がわかったんですか?」
「なあに、銀時の部屋の屋根裏でずっとスタンバっていたから君たちの行動は全て御見通しさ。まあ、途中で寝てしまったから随所随所何があったか覚えていないがな」
「っ!な、なぁ・・・あの時の事は見たか!?」
「む?どの時のことだ?俺は君たちがグランザムに出かけようとした時からしか覚えとらんが」
「なら別に良いんだけど・・・というか、最初からいたならさっさと助けてくれよ!!」
「すまぬ、君がここへ来る間に本日発売の週刊漫画結晶の発売日だったのを思い出してな、一度アルゲードまで帰っていたのだ」
「あぁそう・・・ったく」
掴み所の無い男ってこういう人の事を言うんだな、と、キリトは一つ学習した。
「さて、キリト軍曹。君がここまで苦戦しているということは彼女の剣は並大抵の物ではないと見た」
「あんたの言う通りだよ。彼女はエクストラスキルを所持している。どのような物質も切断することができる厄介なスキルでガードはまず無意味だ。全て回避するか発動させないようにするしかない」
「斬れぬ物は無い―――か。良いだろう」
「良いって何が・・・て、ちょっと!おい!!」
桂はそう言い残してレフティに向かって大きく飛び出し、その勢いで背中から電撃を浴びせた刀を抜刀する!
「貴様!俺とキャラが被っているでないかァァァァッ!!」
「えぇっ?どこがかなっ!?」
再び片手持ちとなったレフティの長剣が桂の刀とぶつかり合う。ぶつかり合った衝撃のみで2人の周りから砂埃が舞いあがった。二人にはかなりの身長差があるが小柄な彼女の化物じみた腕力は健在で、どちらも一歩も引かない状態である。
「うっ・・・回復・・・しないと・・・」
両足は繋がっているものの判定上では部位欠損扱いとなっているため、立つことが出来ないアスナはアイテムポーチから回復結晶を取り出し、自身に使用する。部位欠損については三分後には回復する。しかし、この一連の命のやり取りに三分は長すぎる。元通りになるまで残り一分と二十秒。少しずつ動かせるようになってきた自身の身体を引きずるように安全な場所まで下がろうとする。
幸いなことに彼女の言葉通りであれば自分に攻撃をしてくることはまずありえない。
それが突破口に繋がるかもしれない。アスナは体制を立て直すことに専念し始めた。
(ごめんね、キリト君・・・なにも、できなくて・・・っ!)
「あなたもすごいねっ!今日だけで色々な強い人たちと手合わせできてうれしいよっ!」
「その小柄な身体でここまでの力を!だが、俺とて力だけではない!」
―――集中。
桂は刀を両手で構え、目を光らせる。
次の瞬間、電撃を走らせた刀身を瞬く間に彼女の身体へと切り刻む!
無数の赤いエフェクトがレフティの身体に出現、ダメージ量は少なかったものの距離をとるために後ろへとバックステップをした。
「速っ!速すぎるよっ!私が今まで見てきたプレイヤーのなかであなたがいっちばん速い!お姉さんの更に上を行くなんてっ!」
「む・・・浅かったか。だがこれで終わりでは無い!勝負はこれからだ!」
レフティの言う通り、その桂の剣の速さは自分たちを軽く凌駕していた。下手すれば銀時よりも格上だ・・・キリトは息を飲みこみクレーターから脱出、桂の援護をするために加勢する。
「キリト軍曹!スイッチだ!」
「あぁ!」
キリトは左肩口から体当たりをする。剣を使用せず体術を使ってくるとは彼女も思わなかったためか見事に直撃し、姿勢をぐらつかせた彼女の胴体めがけて右水平斬りを放つ。惜しくも外れてしまうがこれだけでは終わらない。間髪入れず今度は右の肩から再び体当たり。しかし空中に回避行動をとった彼女には当たらなかった
「おなじ技はきかないよっ!」
「まだだっ!!」
(スキルとスキルを掛け合わせるっ!)
右手の剣を光らせ、宙に浮いた彼女に対しキリトはソードスキル「バーチカル・スクエア」を繰り出し、その小柄な身体に四連撃を入れる!見事に全てヒットし、気が付けば彼女のHPも三分の二まで減らしていた。攻撃を受けた彼女は自身が攻撃を全て受けたことに驚いていたのか、受け身すらとれず大きな音をたてて地面へと落下した。
「まさか体術スキル発動からのソードスキルとは、さすが軍曹だ」
「結構ギリギリだったけど、なんとか・・・な」
味方がいるのは何とも心強いことだろうか。
もし自分1人であれば今の技は満足に発揮できていなかっただろう。
失敗をした時に補助をしてくれる人がいるという安心感もあってなせた芸当だ。
「ふぅ〜・・・結構痛いのもらっちゃったなぁ・・・でもっ!ここで諦めたらキリトくん殺せなくなっちゃうし、もっともっとがんばらないとだよねっ!」
彼女のポジティブシンキングは時折恐ろしい。
2対1という圧倒的に不利な状況なのにまだ抵抗しようとするのだろうか?
すると、彼女は再び剣を『両手』で構える。
―――本気になった合図だ!
「桂さん気を付けて!今まで以上のが来る!」
「心得た!だが先手必勝!」
桂は再び刀身に電撃を浴びせ、一瞬でレフティの懐に入る!
また、あの超音速の斬撃を入れるつもりだ。
桂の眼が光り、一瞬だけ彼の世界が広がる。
(―――見えた!)
無数の斬撃が彼女の身体を切り刻む・・・
はずだった。
「な゛・・・なにっ!」
「見えたよっ!やっと・・・つかまえた」
桂の剣の刀身が彼女の左手に掴まれていた。
刀の持ち主もまさか自身の刀を見切れる訳がないと自身があったのか、言葉が何も出てこなかった。
彼女は、あの超高速の斬撃を長剣で『全て』ガードしたのだ。
桂は己の剣を引き下げようとするも全く動かない。彼女の左手がそれを許さない。
なんて奴だ・・・まさに『化物』だ。
「ん〜、あなたも強いんだけど、ちょっとだけ邪魔なんだよねっ!ほいっ」
――――次の瞬間。
桂の『右手』が無くなった。
気が付けば、彼女の持つ剣の刀身は赤く光っていた。
スキルを発動させられた―――!
桂は肩から手先にかけて無くなった手に構う事無く、キリトのすぐ隣にまで後退する。
「桂さんっ!!」
「あ、安心しろキリト軍曹。痛みは無い・・・無いが、まさか俺の斬撃を全て受け止めるとは・・・あの年齢でここまでの動きができる者を俺は見たことがない。奴は本当に『人間』か?」
「くっ・・・」
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w