天狗風
恥ずかしさの余り顔を顰めながら、唇を寄せる。数日寝込んだせいで、少しかさついた唇に触れる。柔らかく噛み付くようにしては、何度もキスを繰り返す。随分と久しぶりに触れた気がする。最初はされるがままになっていた廉造も、勝呂の頬に優しく触れると、熱心に応え始める。互いを想う気持ちが口付けるたびに幾重にも積み重なるようだった。最後には全部解けて一緒になってしまえばいい。
「志摩ぁ! 見舞いに来たぞ!」
ガラリと勢い良く病室の扉が開く音がして、燐の大声が飛び込んでくる。突然のことで二人して顔を離すのが精一杯だった。
「あ? お前ら……」
胸倉を掴んでいる勝呂の体勢を見て、燐が驚いたような顔をする。
「なんだ、ケンカしてんのか?」
しょーがねーな、と笑う後ろから、塾生たちがぞろぞろと顔を覗かせた。見舞いだと言って雪男が差し出したのが、課題だったのに廉造がうげぇ、と物凄く嫌そうな顔をした。
「ま、勝呂すっげー心配してたからな。志摩諦めろ」
素直に怒られろ、と言う意味だろうが、妙に廉造の退路を絶つような言葉でもある気がしたのは、勝呂の気のせいだろう。だが、本当にそうなら良い。
「そやな、諦めろ」
ぼす、と胸の真ん中を突く。うぎゃ、と妙に切羽詰まった叫び声を廉造が上げた。
「アカン、ホンマに肋骨イッてもうてるかも……」
「はよ言え、このどアホゥ!」
勝呂は慌ててナースコールのボタンを押した。
――end せんり