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ひた隠し歴ウン百年目の露見事故

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 珍しい事が大分重なった昼下がり。
 一つ、徹夜二日目明けにして一向に眠れずにいた事。
 二つ、たまたま通りかかった幼馴染が寝付けぬ俺に気まぐれ起こして子守唄を歌ってくれた事。
 三つ、目を閉じた俺が寝付いたと思ったか、件の幼馴染が歌をやめて俺の頭を撫でている事。
 そしてそれが現在も進行形である事。

 俺の髪を優しく撫でるあいつの手が、うとうとの眠気と相まって心地いい。今ここで眠って手放してしまうのが惜しく、俺はもうちょっととぎりぎりの所で寝落ちせずにいた。
 そんな俺が夢を見るように記憶を反芻させているのは、ぽつぽつと聞こえてくるあいつの声のせいだ。時折聞こえてくる言葉は俺にも覚えがあり、半ばつられて昔を思い返していたが、それも流石に限界近い。
 引き延ばしていたまどろみに、たびたび意識が飛ぶ。ソファに投げ出した体が足の先までじんわり暖まってきて、このまま寝付けそうだなと思った矢先、あいつの声がまた聞こえた。

「……かして、かっこつけてきてたのって頭撫でてほしかったから?」

 ああそうだよ。じゃなきゃ髪崩されるってわかっててつっかかったりしねぇよ。
 ……。
 ……。
 ……ん、俺今返事したか? あれっ?
 前後不覚の俺の耳に、それはないかとかなんとかあいつの声が続けて聞こえる。
 つい唸ってしまった俺に驚いたか、俺を撫でていた手が離れて気配が遠のく。静かな足音が完全に聞こえなくなってから、俺はとうとうあいつに気付かれてしまった事にもだえた。あああああああ、と、不鮮明な思考が頭の中を「あ」で埋めつくす。

 だって撫でられるの好きなんだ。好きなものは仕方ねぇだろ。

 背が伸びて頭を撫でられる事なんかめっきり減ったあの時分。俺をよく撫でててくれた荒くれ共みたいに、力強くわしゃわしゃと撫でられるなんてもう無いと思っていたあの頃。だから本当は、本当にそれが嬉しくて、あいつだから、殊更舞い上がって。照れ隠しのリベンジにかこつけて時々頭撫でてもらいにいってたなんて。
「……俺様かっこわるすぎるぜー……」
 我ながら素晴らしいまでに情けない声。俺は両腕で頭を抱えこみながらソファの上で縮こまった。
 ああもう帰りたい。俺様の部屋に帰って小鳥抱えて寝たい。
 それを実行出来なかったのは、眠気が既に限界を超えていて起き上がれなかったからだ。目はしばしば重たいし、顔も手足もじわじわとしたあたたかさを訴えてきて、もう体は八割方寝入っている。羞恥ごと抱き込んで意識が眠りに飲まれつつある。
 頭を抱え込んだまま背もたれに向いて、ソファの角に収まるはずもないが、収める気持ちで体を詰めた。
 この体勢ならもしあいつが戻ってきたとしても、俺の顔は見えないだろう。安泰だ。もう寝てしまえ俺。
 あいつは気付いてしまったようだが、俺が今ここで寝入れば確たる答えは謎のままだ。ほぼバレていようが、俺様はこの秘密を、甘えたがりの真意だけはあいつに隠し通してやる。
 そうして俺は二日ぶりの睡眠をふて寝で迎えた。

 その後、起き上がった後である。
 俺の体を包んでいた毛布を見た時。それをかけられたような覚えと一緒に頭を撫でられたような記憶もセットで思い出してしまって、俺は――



『ひた隠し歴ウン百年目の露見事故』