ナキムシと手のひら
ただ、君だけを想って。
ただ、君だけに逢いたくて。
[ ナキムシと手のひら ]
「遅いなぁ………」
今日何度目かになる溜息と共に、腕時計に目をやる。
針は先程目にした時から10数秒も進んでいない。
携帯にも、当然メールや電話の通知はない。
ただただ気だけが逸る。
待ち合わせした時間からは15分ほど経っていた。
元々少し寝坊気味なところはあったけれど、
それでも遅れるようならきちんと連絡はくれていた。
「俺…日付間違えてないよね…?」
何度も確認した携帯を見てみるけれど、やはり合っている。
日付を伝え間違えたはずもない。
今日という日を、間違えるわけにはいかない。
「あのっ!」
「はっ、はい…?」
「今日って、何月何日ですか?!今って何時何分ですか?!」
「えっ?!えーっと…」
何かのアクシデントで俺のものだけ日付や時間がずれているのかもしれない。
もしかして寝ている間に俺だけタイムスリップしているかもしれない。
気付かないうちに世界を移動してしまっているのかもしれない。
そんな不安に駆られて思わず通りすがりの人に尋ねたけれど、
返ってきた答えは約束した通りのものだった。
項垂れながらもお礼を言い、その場にしゃがみ込む。
「はぁ…本当どうしたんだろ………」
溜息が、真っ白になって空気に溶けて消える。
俺が世界を移動してるなんてこと、もうないのに。
世界が彼女を殺そうとするなんて、もうないのに。
それでもいくつもの可能性を考えてしまう。
もしかして、来る途中で電車や車の事故に巻き込まれていたら?
歩いているときに偶然植木鉢がベランダから落ちて来ていたら?
工事現場の鉄骨が何かのはずみで落ちて当たっていたら?
公園で野球をしていた子どもたちのボールが偶然彼女に直撃していたら?
寒くて道路が凍っていてうっかり滑って頭を打っていたら?
突然現れたカラスの大群に襲われていたら?
頭の中に良くない予想ばかりが駆け巡って止まりそうにない。
早く彼女に逢いたい。
早く彼女に逢って、無事を確認したい。
この手で抱きしめて、安心したい。
「やっぱり俺が家まで迎えに行けば良かったかなぁ…」
心配だし、少しでも長く一緒にいたいし、早く会いたいし。
ただ、そうすると"コレ"を取りに行くのが間に合わなかった。
視線の先は、手のひらの上の小さな箱。
もう少し早くお店を開けてくれればいいのにという不満は、今はしまっておく。
彼女の無事が最優先だ。
「あああもうっ!なんで電話繋がらないの!?」
突然立ち上がって叫んだ俺に、周りにいた人たちがビクッとした気がした。
あくまで気がしただけで、俺自身は感知していない。
それよりも、彼女の携帯に連絡がつかないことのほうがよっぽど問題だ。
さっきから何度か鳴らしては見るものの、無機質な音がひたすら繰り返されたのちに
機械的な音声が彼女が出られないことを伝えてくるだけだ。
こうなると、ますます不安は募る。
「やっぱり何かあったのかな…家まで迎えに行った方が…
あ、でももしも入れ違いになっちゃったらそれはそれで困るし…。
そうだ!携帯に連絡入れておけば…!
………って思ったけどこれだけ繋がらないってことは見てなさそうだし…」
何となく、俺の周囲から人が離れていく。
これもまた気がするだけだけれど。
どうしようかとあれこれ考えてその場をうろうろと歩き回り、
もしかして体調を崩して寝込んでいるのかもしれないし、
やっぱり彼女の家まで行こうと、決意した瞬間だった。
ただ、君だけに逢いたくて。
[ ナキムシと手のひら ]
「遅いなぁ………」
今日何度目かになる溜息と共に、腕時計に目をやる。
針は先程目にした時から10数秒も進んでいない。
携帯にも、当然メールや電話の通知はない。
ただただ気だけが逸る。
待ち合わせした時間からは15分ほど経っていた。
元々少し寝坊気味なところはあったけれど、
それでも遅れるようならきちんと連絡はくれていた。
「俺…日付間違えてないよね…?」
何度も確認した携帯を見てみるけれど、やはり合っている。
日付を伝え間違えたはずもない。
今日という日を、間違えるわけにはいかない。
「あのっ!」
「はっ、はい…?」
「今日って、何月何日ですか?!今って何時何分ですか?!」
「えっ?!えーっと…」
何かのアクシデントで俺のものだけ日付や時間がずれているのかもしれない。
もしかして寝ている間に俺だけタイムスリップしているかもしれない。
気付かないうちに世界を移動してしまっているのかもしれない。
そんな不安に駆られて思わず通りすがりの人に尋ねたけれど、
返ってきた答えは約束した通りのものだった。
項垂れながらもお礼を言い、その場にしゃがみ込む。
「はぁ…本当どうしたんだろ………」
溜息が、真っ白になって空気に溶けて消える。
俺が世界を移動してるなんてこと、もうないのに。
世界が彼女を殺そうとするなんて、もうないのに。
それでもいくつもの可能性を考えてしまう。
もしかして、来る途中で電車や車の事故に巻き込まれていたら?
歩いているときに偶然植木鉢がベランダから落ちて来ていたら?
工事現場の鉄骨が何かのはずみで落ちて当たっていたら?
公園で野球をしていた子どもたちのボールが偶然彼女に直撃していたら?
寒くて道路が凍っていてうっかり滑って頭を打っていたら?
突然現れたカラスの大群に襲われていたら?
頭の中に良くない予想ばかりが駆け巡って止まりそうにない。
早く彼女に逢いたい。
早く彼女に逢って、無事を確認したい。
この手で抱きしめて、安心したい。
「やっぱり俺が家まで迎えに行けば良かったかなぁ…」
心配だし、少しでも長く一緒にいたいし、早く会いたいし。
ただ、そうすると"コレ"を取りに行くのが間に合わなかった。
視線の先は、手のひらの上の小さな箱。
もう少し早くお店を開けてくれればいいのにという不満は、今はしまっておく。
彼女の無事が最優先だ。
「あああもうっ!なんで電話繋がらないの!?」
突然立ち上がって叫んだ俺に、周りにいた人たちがビクッとした気がした。
あくまで気がしただけで、俺自身は感知していない。
それよりも、彼女の携帯に連絡がつかないことのほうがよっぽど問題だ。
さっきから何度か鳴らしては見るものの、無機質な音がひたすら繰り返されたのちに
機械的な音声が彼女が出られないことを伝えてくるだけだ。
こうなると、ますます不安は募る。
「やっぱり何かあったのかな…家まで迎えに行った方が…
あ、でももしも入れ違いになっちゃったらそれはそれで困るし…。
そうだ!携帯に連絡入れておけば…!
………って思ったけどこれだけ繋がらないってことは見てなさそうだし…」
何となく、俺の周囲から人が離れていく。
これもまた気がするだけだけれど。
どうしようかとあれこれ考えてその場をうろうろと歩き回り、
もしかして体調を崩して寝込んでいるのかもしれないし、
やっぱり彼女の家まで行こうと、決意した瞬間だった。