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ナキムシと手のひら

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―――――キキィィィッ!!




通りの向こうから耳障りなブレーキ音と、
それに続いてドンッという鈍い音が聞こえてくる。

嫌な予感がする。
背中を、冷たい汗が伝っていく。
全身の血の気が引いていくのが、自分でもわかった。



「おい、事故だぞ事故!」

「救急車!誰か救急車呼べ!!」

「女の子がはねられたらしいぞ!」



野次馬が次々と事故の遭った方へと向かう中、俺はその場から動けずにいた。
手持無沙汰でずっと弄っていた小さな箱が、手からするりと落ちる。

頭の中が真っ白だ。
彼女かもしれない。彼女じゃないかもしれない。
でも、これだけ待っても来ないということは、可能性は大きい。
確かめるのが、怖い。



どうして…どうして彼女が。
やっと彼女と幸せになれると思ったのに。
やっと、やっと俺の小さな夢がひとつ叶うと思ったのに。

俺が彼女を殺さない、
誰も彼女を殺さない、
俺が、俺のままでいられる、
やっと見つけた、たったひとつの世界だったのに。



「っ―――…」

『―――――ウキョウ!!』



崩れ落ちそうだった俺の背中に、聞き覚えのある声が降ってくる。
俺を呼ぶ、大好きな人の声。

何とか踏みとどまって振り返ってみれば、そこにあるのは彼女の姿。
俺に向かって駆け寄ってくる、探し求めていた愛しい人。



『ウキョウ!良かった無事でっ………』



呆然としている俺に、彼女は走ってきた勢いのまま抱きついてくる。
背中に回された腕が少しだけ震えていて、
俺に触れる彼女の体が温かくて、
そして俺は、やっと彼女が無事だったことを実感した。



「君っ…無事……だったの…?君じゃなかったんだ…
 良かった…俺っ、君なんじゃないかって思って…
 また君がいなくなったらって…どうしようって…
 あ、事故が遭ったんだから全然良くないんだけどっ、
 でももしまた君を失っちゃったらどうしようってそれでっ…」



ぐにゃりと、視界が歪む。



「やっぱり…君が無事で、良かった………
 本当に、本当に…良かった………」

『ウキョウ…』



安心したせいなのか、世界はどんどんぼやけていく。
子どもみたいに泣く俺を、それでも彼女は優しく包んでくれた。



『大丈夫よ、ウキョウ。
 私は大丈夫。だから泣かないで。
 本当、泣き虫なんだから。』

「うんっ…そうだよね…俺の方が年上の方なのに…ダメだね。」

『ダメじゃないよ。
 それだけ、私のこと心配してくれたんでしょう?
 だから、ダメじゃない。ありがとう、ウキョウ。』



俺よりとても小さくて、弱くて、守ってあげないといけない存在なのに、
彼女は強くて、優しくて、俺の頭を撫でる手はとても温かくて。

ただ、そのことがすごく嬉しくて、幸せだった。
作品名:ナキムシと手のひら 作家名:ユエ