aph 『英国シンシの憂鬱』
■N国シンシの憤慨 弐■
味がないのです…まるで抜けてしまったように。
美味しいエキスをどなたかがすべてジュウジュウと吸ってしまって、その残ったカスを出されたようなこの感じ。
確かに、もともとちょっとかための料理であるとは思います。
でも、これがタンドリーチキン…ですか……。
それで、飲み物と合わせて6600円相当の食事です。
フードコートのたこ焼きだってここの料理より美味しいと思います。
平気な顔でお客さんに出しているようですが、ウェイターさんたちもこの料理を食べてらっしゃるんでしょうか?
もう二度とこの街で外食はすまい。そう心に誓って、この経験は忘れることにしました。
しかし、そうなると次の日からの食事に困ってしまいます。
なにせ上司の気まぐれの命令で、お忍びで予定よりも早く来させられてしまったものですから、イギリスさんには内緒の行動なのです。
イギリスさんに美味しいお店をご紹介いただくわけにもいきませんし……
それに、みなさんの噂では、イギリスさんの家のお食事は、かのアメリカさんをも上回る、その、あれだそうですし。
幸い、ホテルの朝食はついていますから、これを食してから出かけることにしたものの。
クロワッサンも、食パンも、どれもみんな、カサカサ、パサパサです。
しっとりしてません。もっちりしてません。
どうしてこんなにボロボロなのですかっ?
くわっっ。
次の日から、私の朝食はシリアル&ミルクになりました。
ああ……イギリスさん……私はイギリスさんの魔境に陥ってしまったのでしょうか……
まるで悪意を受けているようにすら感じます。
食べるたびに、「帰れ! 帰れ!」と言われているような気持ちになるのは、「ぶぶ漬けのような粗末な食事を大事な客人にはご馳走しない」といった習慣を私が持っているからなのでしょうか。
私は招かれざる客……
気分が落ち込んできました。
外にも霧が立ち込めています。
作品名:aph 『英国シンシの憂鬱』 作家名:八橋くるみ