aph 『英国シンシの憂鬱』
■英国シンシの憂鬱■
正直言って、悩んでいる。
日本が俺の家にくる。
そのこと自体はまぁ、嬉しくないこともない……ってべつに嬉しいわけじゃない、が、悪くない、としてだ。
日本のやつ、最近口が肥えやがった。
ちょっと前まで、「この世の不幸は日本料理を食べること」って言われていた位、あいつの家の料理は味がなくてマズいっていうのがみんなの共通認識だった。
それが、このたった十数年の間にどうだ。
今やフランスの奴とも張り合うほどグルメになったらしい。
そして、日本の陰に隠れて目立たなかったはずの俺んちの料理の評判が、ついにささやかれ始めてしまった。
「お前んちのメシ、まずくね?」
くそっ、フランスの野郎のせいでだな!
ウチの料理の悪評判は、しばらく世間から忘れられていたばずだったのに。
だいたいなんだよ日本のやつ、昔はニコニコして
「ええ、料理で大切なのは栄養や素材の質の良さですからね。味付けなんて、食べにくいものを食べやすくするための工夫にすぎませんよね。凝っていたり複雑だったりすればいいってもんじゃありませんよ。」
――なんて言ってたくせに!
くそー、しおらしく「脂っこいものは苦手です」とか言ってた頃の日本が懐かしい。
どっちにしても、日本を迎えなきゃならないことには変わりない。
出会ったころからずっと俺の方があいつに対して指導的な立ち位置を死守してきたんだからな、うっかり軽蔑されるようなことにでもなったら紳士の国の面目に関わるぞ。
どうしたらいいんだ……
錬金術で美味しい料理を魔法のように取り出して……
ああー出来たら世話ねぇ!
と、とりあえず激マズと言われてるようなやつを食べられないように注意して…
そうか、俺がつきっきりで案内して回ればいいんだな。
よし、あいつがヒースローに着いた瞬間から帰りの飛行機に乗せるまで、BBC二十四時間完全密着取材もびっくりのはべりっぷりで、食い物を紹介してやるからな。
絶対に一人で勝手にメシ喰うなよ、日本!!
作品名:aph 『英国シンシの憂鬱』 作家名:八橋くるみ