届かなかったラストレター
承太郎の手で破けないよう丁寧に剥がされたページを見て目を見開いた。
それは米粒やノリなどではなく、時間が経って黒くはなっているものの承太郎にはそれが血である事がすぐに解った。
そしてそこには見覚えのある一枚の古い紙切れが入っていた。
震えそうになる指で閉じられたページに折り畳んで入っていたその紙は血痕塗れで、古ぼけていたし、血に濡れた事によってよれよれになったまま、この挟まれたページの中で乾いてしまったような紙だったが、承太郎には解った。
後で仗助にどうにかして貰えるよう頼んでみようと、頭の中で密かに思いつつ、まだ読める部分がありそうなその折りたたまれた紙を取った。
それは、承太郎がジョナサンに【行くな】と書いた紙だった。
落ち畳みされ、血でボロボロ崩れて行きそうになる紙を何とか開いたそこに書かれていたのは、ジョナサンの血で走り書いたのだろう最期の言葉だった。
【承太郎、僕は多分キミが好きだった】
読んだ承太郎は静かに口角を上げながら涙を流した。
「――…やれやれ……涙線でもイカれたか…」
嬉しさと、悲しさと、歓喜と、辛さと、両想いだったかもしれない入り乱れた感情が水分となって承太郎から噴き出したようにも見えた。
***
後日、承太郎はSPW財団がエリナ・ジョースターの隣に作ったジョナサン・ジョースターの墓に訪れていた。
花葬されたジョナサン・ジョースターの墓には首から上の灰はない。
DIOから奪い返したジョナサンの首から下の身体を花葬してジョナサンの墓に埋めたものしかない。流石に今さら海底に潜っても100年以上経って居るし、何人もなくなっている船の中だ。見つけられないだろう。
「…よぉ、…俺も、結婚することにしたぜ…」
それでもそこはジョナサンの為に用意された墓だった。
「あんたには相談に乗って貰ってたからな。報告しに来た」
SPW財団が責任もっている為、いつ来ても綺麗なジョナサンの墓に花を供えながら、話しかける。頭がない状態の墓で届いているかは定かではないが、承太郎はやめない。
「それと…、あんたの最後の手紙、届いたぜ」
墓参りするには時期外れで、誰も居ない墓には承太郎の声だけ。
「俺も、あんたが…ジョナサンが好きだった。いや、恐らく今も好きだ」
あり得ない方法で、出会う事もお互いの声を聞く事もなかった奇妙な出会いであったが、心に勝手に住処を作って、今でも確かに存在している。
「俺がそっち(あの世)に行ったら、今度こそ会おうぜ。俺もあんたと話しがしてみたいんだ」
それと、これは預けとくぜ。あの世で読みな…と、ジョナサンと承太郎が愛用し、繋がるきっかけをくれた不思議な本をジョナサンの墓に置いた。
「それから…俺が逝った時は、今度こそあんたは、あんたの妻か俺か選べ…言っておくが俺は気が長い方じゃねえから、覚悟しな」
じゃ、またな。
承太郎はすっきりしたような表情をして、暫くするとジョナサンの墓を後にした。
『選べだなんて酷いなぁ。愛と恋は違うだろう?…承太郎』
――――完――――
8/18のイベントにて配布致しました。
ありがとうございました。
作品名:届かなかったラストレター 作家名:ちょめっ斗