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ちょめっ斗
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届かなかったラストレター

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そう返された時、承太郎はジョナサンも自分と同じ星の血筋の初代の人間だった事を思い出しすのだった。
誰が止めても、きっと誰かが傷つくんだったら闘う。
自分が守れる人がいるのなら、それこそ命絶えるまで――…


(…解っていた事だ)

ホントに?

(俺も、人の事言える生きざまなんざしてねえだろ)

それでも、

(あんたを救いたいんだ)

例え会えなくても。

(会えなくても、あんたと会話していたいんだ)

ウソだ。

(……本当、だ)

本当はあんたに会ってみたかった。

(そんなこと、できねえ…)

彼は、死ぬ運命にあるのだと、

(――…知りたくなかった)

だがそれももう遅い。
全て知ってしまった。彼の未来の行方を…。

初めて自分は誇りに思って居た星の血族に疑問を思った日だった。

「―――ジョナサンッ」

悲痛な叫びは誰に届く訳もなく、承太郎の自室で一度響いて消えて行くだけ。
本を抱えた承太郎の耳に、『こんなの、残酷すぎるッ』と、誰かの叫びを聞いた気がした。


* * *


承太郎が止めたくても止められず、ジョナサンが闘いに身を投じて連絡が取れなくなって数日過ぎた頃、再び自分の栞と一緒に挟まっていた紙が少しページの進んだ場所に挟まれているのに気付いて、ジョナサンと連絡が取れなくなって読むのを止めていた本を再び手を伸ばした。

承太郎は彼が自分の先祖であり、戦闘に身を投じる初代の人物であるとジョナサン・ジョースターであることを知りながら、ジョナサンにはそれを一向に教えることなくこの文通を続けることにした。

彼は知らない方がいいのだ。
自分がどう死ぬのか。
承太郎が彼の玄孫である事も。
辛いが、承太郎だけが抱えればいい問題だと自己完結した。

【連絡が遅くなってごめんね。
決着がついてやっと落ち着いたんだ。僕は近々結婚することになったよ。】

―――ズキッ―――

「…?」

【キミは、結婚について悩んで居るみたいだったけど、難しく考えてないかい?
悩んで居る女性と一緒に居たいから結婚をするんだと僕は思う。
守れるか解らないから結婚しないだなんて、勿体ないと思うんだ。
折角生きて一緒に入れる時間があるのなら大事にしないと、人間は何が起きるかわからないのだから――…

僕は、僕の命尽きるまで愛するモノを守るよ。キミはどうだい?】

「…………」

人の気も知らないでジョナサンはジョナサンの幸せを掴もうとしていた。
ここで承太郎の立場からは言わってやるべきなのだが、それだけで済まないモノは己の心に芽生えているような気がして、承太郎は誤魔化すように眼を瞑った。


 ***

それから2日後、ジョナサンの手紙が移動したページに挟んであった。
だが、いつものわくわく感やどぎまぎする気持などとは遥かに違い、何故だか、その手紙を読んではいけない様な気がした。本能のような第六感が自分に何かを伝えているような、そんな感覚を感じ取っていた。

心のざわめきを見ないふりして、収まらないまま心のまま承太郎は紙の挟んであったページを開いて絶句する事となった。

【承太郎。僕はいつかキミに会って見たいと思って居たけど、どうやら無理みたいだ。】

そこには、慌てて書いたような走り書きで、いつもは丁寧に字を並べるジョナサンにしては珍しい程、急いで書いてのがよくわかった。

【突然何を言っているか解らないだろう。だけど、この手紙がキミに送る最後になりそうだ。
結婚して新婚旅行まで、この本を持っていくのは妻に失礼と思ったけど、完成された妻との愛とは違う、キミとの恋愛のような文通で繋がれた絆をどうしても持って居たかった。
だからこの本も共に持ってきた。
でも、持ってきてよかった。キミにお別れの手紙をかけるんだから…。

もっとキミとお話がしたかった。
だけど僕にはもう無理みたいだ。

何を言って居るか解らないかもしれないが、人間を辞めた義弟が僕を追ってやってきたみたいなんだ。
本当かこれを書いてる時間も惜しいけど、どうしてもキミに伝えたかった。

妻は必ず逃がす。
この本もだ。

キミともっといろんな話がしたかった。
キミと会ってみたかった。
でも僕はここまでみたいだ。
ありがとう。ありがとう承太郎。

承太郎の幸せを祈っている。
さようなら

      ジョナサン・ジョースター】

と、書かれていた。
そしてそれを読みながら、ジョセフの話を思い返してみて思い出されるのはジョナサンの最期。
読んだ瞬間、急いでペンをとった。

【行くなッ!!あんたの女と海に飛び込めッ!!!!】

と。

どのように未来を変えようか迷っている時間も与えない程、それはほんの数日で刻は進んでしまって居た。
承太郎は何も手を出せない事の不甲斐無さを悔んだ。

どうか、どうか承太郎のこの『死ぬなッ』という願いがジョナサンに届く事だけとを説に願って拳を力強く握った。
握った拳からは、握り過ぎて皮膚が切れて血が出ているが承太郎にはその痛みさえ感じることが出来ない程、焦っていた。

そして願った。
あの上質な紙がもう一度本に挟まれることを――…

だが、現実はとても残酷で。
承太郎に届くだろう上質な紙使用の手紙が本に挟まれることは二度となかった。

未来は変えられても過去は変えられない、のだと険しい現実を叩きつけられて承太郎はどうしようもない悲しみから目を背けたくなった。

「あんた、この本最後まで読むんだったんじゃねえのか…」

自室で止まらない涙をそのままに、承太郎は静かに呟いた。

――俺も、あんたに会ってみたかった――


***

ジョナサンを失ったと知った日から2カ月程の時間が経った頃――…
暫くは本を開く事を躊躇っていたが、久々に時間が出来て承太郎はずっと読まずに居た本に手を伸ばした。
ジョナサンとの文通がなくてもこの本は元々承太郎は読んで居たのだ。
いつの間にかジョナサンとの文通の方が本を取る理由になってしまっていたが、元はこの本を気に入って読んで居たものだ。

ジョナサンと文通をした時間はとても少ないが、承太郎にとっては大事な時間で、大切で悲しい思い出だ。

悲しくてやるせない気持ちが湧きそうになりながら、承太郎は手に取った本を最後まで一気に読んだ。
ジョナサンが最後まで読みたいと思って居た本だ。
いつか、自分が死んだ時にでもジョナサンに伝えてやろう、なんて自暴自棄にもなりながらページを捲る手を休めず、時間が経つのを忘れたように書かれているページの文字を目で追い続けた。
後々に、同じ研究員の一人が承太郎の部屋に小用で訪ねて来た事にも気付かない程の集中力にも似た気迫で読んで居たと語った。

そして本のラストを読み終わると、承太郎はある事に気付いた。

「……くっついてやがる」

本のラストに必ずあるあとがきのページと添紙が、何かの原因でくっついていて居たのだ。

「飯粒でも誰かが付けやがったのか?」

と、文句を垂れながらも丁寧にそれを剥がしていく。