FATE×Dies Irae3話―8
避けようのないタイミング。
だが、
「――――」
手ごたえが無い。
空振り。
殺気と魔力が、背後で膨れ上がる。
「!」
勘任せに身を投げ出す。
反撃を危惧しての、とっさの回避行動。
床を転がり、起き上りざま背後を振り返ったその瞬間、躱しきれなかった一本の杭が、セイバーの太股を深々と貫いた。
「かはっ……!」
こらえきれずに片膝をつくセイバーを、階段部屋の屋根の上から、ヴィルヘルムが冷厳と見下ろす。
「アホが。てめえ自身が言ったことだろう? ――この結界は俺そのものだと」
セイバーは己の迂闊さに唇を噛む。
(ぬかった……! 空間転移か!)
どこからでも杭を撃ちだせるのと同様に、この結界の中であれば、どこにでも転移できるということか。
しかし、それでもさすがに凛の不意打ちは避けきれなかったらしい。
その右半身は真っ白に凍りついている。
「劣等風情が、よくもまあかましてくれたな……!」
憤怒にたぎった眼差しが凛を射抜く。
ヴィルヘルムの怒りに呼応するように、吸精の威力が段違いに跳ね上がった。
「くっ……!」
「うっ……!」
とうとう耐えきれなくなった様子で、凛と士郎が、力無く膝をつく。
「誇れよ小娘。一介の魔術師風情が俺に手傷を負わせるなんざ、そうそうあることじゃねえ。――褒美だ。全力でぶち殺してやるよ……!」
「いけない……! 凛!」
ヴィルヘルムは完全に逆上している。
凛の死がそのままアーチャーの消滅に繋がることなど、もはや意に介していない。
深紅の杭が、全方位から凛を囲む。
凛だけではない。
すぐ傍らにいた士郎も、まとめて荊の檻に閉じ込められた。
「っ……!」
貫かれた片足に力が入らない。
駄目だ。
間に合わな――
「――爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之(ここにあまつかみのみこともちて ふとまににうらえてのりたまいつらく) !」
眩い炎が躍り狂う。
激しく渦巻く紅蓮の業火が、深紅の杭を一本残らず焼き払った。
ひざまずく士郎と凛をその背にかばい、炎髪の少女が、敢然とヴィルヘルムに剣を向ける。
「来て早々、よもや貴様の相手をすることになろうとはな――ベイ」
「てめえは……!?」
ヴィルヘルムが、悪鬼の形相で牙を剥く。
「レオンハルトォオオオオオオオオオ!」
「違うな、ベイ。私はもう獣の爪牙ではない。櫻井螢――それが、今の私だ」
作品名:FATE×Dies Irae3話―8 作家名:真砂