続 さらば宇宙戦艦ヤマト 8
「島です」
島は藤堂宅のインターフォンを鳴らすとサーシアが玄関に出てきた。後ろには夫人がいた。
「こんにちは」(島)
「「こんにちは、」」(夫人・サーシア)
「すみません、ちょっとサーシアお借りします」(島)
「お仕事でお疲れのところ悪いわね、よろしくね。」(夫人)
島がタクシーを待たせているのが見えたので夫人は早々に二人を送り出した。
(ほんの二週間で中学生が高校生になっちゃったみたいだな…)
島が何気なくサーシアを見てそう思うと
「…まだ背が止まらないの。」
ポツリと言葉を漏らした
「アナライザーはYUKIに乗ってる時に比べたら伸びは少ないって言ってたけど…」
下を向きながら小さな声で話す。運転手に聞こえないように話したいのだろう。タクシーの中は静かだった
「すみません、ラジオ付けてください」
島は運転手にお願いすると少しボリュームを上げてラジオを付けてくれた
「ありがとうございます」(島)
「島さん、ありがとう」(サーシア)
「どこか…痛いところとかないか?大丈夫か?」(島)
「…うん…大丈夫。」
不意にサーシアが顔を上げて外の風景を見た
「もうすぐおばあちゃんのところ…終わりなのよね?」(サーシア)
島は何も言わず聞いていた
「おばあちゃんがここにたくさん家族が出来るってとてもいいことよ、って言ってた
けど…本当に家族になれるか不安で…」(サーシア)
「そうだよね…誰も何も知らないところに一人でいるんだから不安がない方が
おかしいよ。大丈夫、サーシアは普通だよ。」
島がそう言うとサーシアは窓から島に視線を変えた
「俺たちだって今と違う仕事を明日からしなさい、って言われたら…サーシアの
不安に比べたらまったく勝てないと思うけどうまくやって行けるか、成功するか
すごい不安だよ。それと同じ…でも…」
ちょうどそこでタクシーが目的地に着いた。島がマネーカードを通すとお礼を言って降りた
「今のところにいても何も始まらない、って事よね…解ってるの…自分が何を
するべきなのか…自分の身をちゃんと守れるようにならないといけないのも
解ってる…」
島はタクシーを見送りながらサーシアの言葉を聞いていた
「ちょっと…歩く?」
モールは目の前だったが少し散歩をすると復活したばかりの海が見えてその丘を登ると英雄の丘がある…
「はい。」
サーシアは素直に付いてきた。
「ねぇサーシア、思った事言っていいよ。」(島)
「え?」(サーシア)
「もう少しわがままになっていい、って事だよ。」(島)
「わがまま?」(サーシア)
「“これ言ったら迷惑かな?”って俺の前では考えなくていいから。長官の家で
いい子にしてて新しい両親のところでいい子にしてたら疲れちゃうだろ?でも
サーシアの事だからいい子にしなくちゃ、って思って頑張っちゃうだろ?だから
俺だけじゃない。一緒にYUKIに乗ってたメンバーといるときは思いっきり楽し
む事を優先しよう。夫人のご飯もおいしいかもしれないけどたまには目新しい
もの食べに行きたいところに行ったり…。」(島)
「でも…」(サーシア)
「いいんだよ、楽しまないといけないんだ。叔父さんとおばさんになる予定だった
ユキの分もサーシアは楽しまないと…ね。」
二人は海に来ていた
「イスカンダルの海と随分違うだろ?まだまだ海の成分になってないんだ。まだ
見せかけの海…でもイスカンダルから持ち帰った資料でいつか本当の海水に
してみせる、って言ってたよ。」(島)
「でも、水辺って落ち着く。毎日見てたから…マザータウンから見える海も好き
だったけど…ここも好きになれるかもしれないわ。」
サーシアはそう言って大きく伸びをした
「英雄の丘…」
サーシアの視線の先に英雄の丘がある
「島さんはよく行くの?」(サーシア)
「ん?そうだね…仕事に迷ったり…時間が空くとしょっちゅう…行くかな。」
島も英雄の丘を見つめる
「あそこが一番落ち着くんだ…両親には悪いけど実家より…ね。」
「ふうん…」(サーシア)
サーシアは島のバツ悪そうな顔を初めて見たような気がした
「サーシアはよく行くの?」(島)
「ううん…一度藤堂長官が連れて行ってくれたっきり…」(サーシア)
「じゃぁ、ちょっと行こうか?」(島)
「…島さん、嬉しそう。」(サーシア)
「そうか?…行こう!」(島)
島は少し早歩きで英雄の丘に向かった
作品名:続 さらば宇宙戦艦ヤマト 8 作家名:kei