徹夜兄弟
子供たちが思いの向くままに伸ばし続けた迷路は、とても意地悪く曲がりくねって、突き当たるのは行き止まりばかりだ。ワニもクマも確か描いたのはエースで、きっと昔は、自分の人差し指がそこにぶつかるだなんて、思ってもみなかったのかもしれない。
「で、おれはそのとき、これからはピーマン、自分で食おうと思ったんだ」
肉。
ピンと立った指がそれを指したとき、ちょうどエースの携帯がピピ、と鳴った。一瞬何が起こったのかわからなくて硬直したエースだったが、慌てて太郎2つを放り投げる。
「……3分10秒。ほらよ」
ご褒美の肉を受け取ったルフィは、にんまりと笑っていた。
「エースは案外自分のことになると、ぼんやりしてんだ」
「あ? お前に言われたかねえよ。だいいち、俺はそのピーマンゲロの件だって何一つ覚えちゃいねえんだぜ」
「だって、ほんとなんだから仕方ねえだろ?」
焼肉さん太郎をグニグニと噛みながら、ルフィはノートをまた1枚捲った。
「お、見ろよエース。豪雪戦隊雪だるさんだ」
ノートにずらりと並んだへたくそな雪だるまの絵には、エースも見覚えがある。『ごうせつせんたい! ゆきだろちん』。珍しく雪の降った日の深夜、同じ毛布に包まりながらスタンドの明りの下で生み出した、想像のヒーロー戦隊。
「赤だるさん……おお、案の定だな」
「赤だるさんは、肉を食うとパワーアップするんだ」
「ほんと、そればっかりじゃねえか」
青だるさん、みどだるさん、桃だるさんに黒だるさん。
「なあエース、ここ見ろよ、ここ」
やけに嬉しそうな声を上げて、ルフィが赤だるさんの頭部を指差した。ぐにゃぐにゃの線で描かれたそれは、辛うじて顔のパーツが判別できるくらいのものだ。見ろよ、と言われてもそれ以外に思うことなど――
「赤だるさんにはな、そばかすがあるんだぞ」
エースは思わず、赤だるさんの下にこまごまと書かれたミミズを目で追った。
『あかだろさん。肉をくって、パワーアップ。つよい。やさしい。かっこいい。ピーマンがにがて。ひっさつわざ、ひのパンチ、ひのキック、ギュウニューふぁいあ』
かくん、と、ルフィの頭が垂れた。時刻は、もう午前3時。毎晩就寝午後10時のルフィには、結構な夜更かしだ。しかしルフィは、ぱっと顔を上げて、にこにことエースを見つめた。
「な?」
「……わかった。わかったよ! チクショウ、ああ、俺はピーマンゲロを吐いた。だろ?」
夜が更けていく。ルフィの目はうとうとと細められているが、しかし、それでも嬉々として夜じゅう、ページを捲り続ける。
そしてエースも、「もう寝るか?」と、そう言い出すつもりは無い。朝日が昇るまでこうしていよう。そして最後に、またひとつ、2人のノートにページを加えるのだ。
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ただのぐだぐだ話ですが、書いてて楽しかったです!
夜更かし弟は眠たくてぼんやりなので、セリフに「!」マークを使わないようにしようと決めたんですが、すごく悩みました。