激ニブ星の恋人?
かぶき町最強バトル大会は勝ち抜き戦だ。
銀時は勝ち続け、ついに決勝戦まで駒を進めた。
大会の司会者が大げさな身振りで銀時を右の手のひらで指し、左手に持ったマイクで声高らかに紹介する。
「いつもはやる気がなさそうで、しかし、イザとなったらきらめく、その落差がニクい、万事屋銀ちゃんです!」
なんかぜんぜん嬉しくねェ紹介だなと銀時は思ったが、観客席からは歓声があがる。
「きゃー、銀ちゃん、がんばってー!」
「がんばれー!」
歓声をあげている者の中には、知人もいるが、見覚えのない者もいた。
とても黄色いとは言えない野太い声の持ち主もいる。
司会者がマイクを銀時のほうに向ける。
「なにか一言お願いします!」
「……あー、がんばりまーす」
投げやりに銀時は言った。
しかし、それでも、観客席からは歓声と拍手がわきあがる。
司会者は満足したように笑うと、身体の向きをくるりと変えた。
「さて、万事屋銀ちゃんと対戦するのは……!」
右の手のひらで、銀時がいるのとは反対方向を指す。
「役者にしたいような美形、すらりとした体つき、まるで牛若丸のような身軽さと鋭さで敵をバッタバッタと倒す、桂小太郎(仮名)さんです!」
その紹介の直後、また観客席から歓声があがる。
「桂小太郎(仮名)さん、がんばってー!」
「桂小太郎(仮名)さん、カッコイイー!」
エリザベスも手を振っている。
それに気づいた桂が手を振り返す。
観客席の歓声がいっそう大きくなった。
「桂小太郎(仮名)さんへの歓声も、さっきの万事屋銀ちゃんへの歓声に負けず劣らず、すごいですね!」
司会者が言う。
「やはりそれには、桂小太郎(仮名)さんの容姿の良さも影響しているのでしょうか。あ、いちいち長くて面倒ですね、略して、桂小太郎さんで行きましょう」
「いや、その略はマズいから! 一番省略したらダメなところを省略してるから!」
そんな銀時のツッコミは綺麗さっぱり無視される。
司会者は桂にマイクを向ける。
「桂小太郎さん、なにか一言お願いします!」
「うむ」
本名で呼ばれているのに気にしたふうもなく、桂は威厳たっぷりにうなずく。
そして。
「今日は俺のために、皆、集まってくれて、ありがとう。振り返れば、物心つかぬうちから竹刀を握り、剣術道場に入門してからは……」
「桂小太郎さん、一言でお願いします」
司会者は桂の話をさえぎった。
すると、桂は司会者を見すえる。
「俺の剣術の歴史に興味がないというのか」
「いえ、そうではなく、時間がおしているんですよ〜」
「そうか、ならばしかたない」
「では、改めて、桂小太郎さん、一言お願いします!」
「俺は必ず勝つ!」
桂は力強く宣言した。
こーなることは予想してたが、な。
そう銀時は思う。
正面では桂が木刀を構えている。
銀時も同じように木刀を構えていた。
勝ち抜き戦の対戦表を見ると、決勝戦まで勝ち進まなければ桂とはあたらないことがわかった。
その瞬間に、こんなふうに決勝戦で桂と立ち合うことを予想した。
向かい合ったまま、じりじりと平行線を描くように動く。
お互い、間合いがつまらないようにしていた。
こちらから仕掛けるか。
そう銀時が考えたとき、桂が踏みこんできた。
早い……!
しかし、銀時は桂が放った一打を木刀で受け止める。
さらに打ち返そうとした。
だが、それを嫌うように桂がさっと身体を退いた。
力で押されれば負ける。
それを桂は知っている。
だが、銀時のほうが強いというわけではない。
俊敏さでは桂のほうが上だ。
油断は一切できない。
それを銀時はよく知っている。
なにしろ幼い頃からのつき合いだから、何度も立ち合ったことがあった。
さて、どうするか。
今度は、銀時が間合いに踏みこんだ。
一気に距離を詰める。
が、桂にかわされる。
桂は攻撃に転じ、木刀を走らせてきた。
それを、銀時は木刀で受け止める。
打ち合いになった。
その音が、会場に響き渡る。
観客は固唾をのんで試合に見入っていた。
また、桂が身体を退いた。
真剣な場面である。
しかし、桂の頬に笑みが浮かんでいる。
「なんだ、オメー、楽しいのか」
いつのまにか、そんな台詞が銀時の口から出ていた。
もっとも緊張はまったくゆるめていない。
それは桂も同じだ。
「ああ、おまえとこんなふうに立ち合うのは久しぶりだからな、楽しい」
桂は木刀を構えたまま、言う。
「銀時」
秀麗な顔に笑みを浮かべながら、桂は続ける。
「俺は、おまえが好きだ」
えっ……!?
銀時の頭の中は真っ白になった。
その瞬間。
「隙あり!」
桂が打ちこんできた。
だが、銀時は反応できない。
肩を木刀で打たれた。
その衝撃で、立っていることができず、跳ねとばされるように地面に尻もちをついた。
ぼうぜんと座りこむ銀時をよそに、ついさっきまで静まりかえっていた観客席が一気にわきたつ。
「桂小太郎さんの勝利です!」
司会者が興奮気味に告げた。
そして、桂のほうに向かう。
けれども、桂は銀時のほうに近づいてきた。
銀時の正面に腰をおろす。
「どうした、さっきは隙だらけだったぞ」
そう言い、小首をかしげた。
銀時はむくっと身体を起こす。
さらに、桂の肩をガシッとつかんだ。
「さっき、オメー、俺のことが好きだって言ったよな……!?」
大変重要なことである。
はっきり言って、勝負も賞金も今はどーでもいい。
ようやく、やっと、長年にわたる片想いに終止符を打つことができるのだ。
永久凍土かと思われていたところに、いきなり春が到来したのだ。
「ああ、言ったぞ」
あっさりと桂は認める。
銀時の胸が躍った。
しかし、続きがあった。
「俺はおまえと立ち合うのが好きだ」
桂はそう告げた。
「なんだそりゃー!」
思わず、銀時はほえた。
「さっき言ったのと違うだろ、それ!!」
「ああ、あのときは試合の最中だから、少し省略したんだ」
「するな! そんな、まぎらわしいこと!!!」
やっと春が来たと喜んだぶん、ショックは大きい。
銀時の身体が揺れ、そして、バッタリと後方に倒れた。
「そりゃーないぜ、ヅラ」
観客席で神楽が銀時の気持ちを代弁した。
かぶき町最強バトル大会。
その初代王者として、桂小太郎(仮名)、の名が、その歴史に刻まれた。