激ニブ星の恋人?
第十五話 白黒ハッキリつけましょう
雨が降っている。
汗ばむ陽気が続き暑さがどんどん増していたが、本格的に夏に突入するまえに、雨が続くようになり、肌寒くもなった。
梅雨だ。
テレビでお天気お姉さんもそう言っていた。
そんなことを思い出しながら、桂は道を歩いていた。
攘夷党の同志と情報交換をした帰りである。
歩いているうちに、傘をさしていても、きものは少し濡れていた。
特に足下のほう、足袋は湿っている。
早く家に帰り着きたい。
そう思ったとき。
ざっぱん……!
水が大量に飛び散ってきた。
舗装されていない道にできていた大きな水たまりの上を、大型車が猛スピードで通りすぎたのだ。
運悪く、その近くを桂は歩いていたのだった。
全身びしょ濡れになった。
ぼうぜんとする桂にかまわず、車は一切スピードを落とさないまま遠ざかっていく。
ふざけるなバカヤロウ、と怒鳴ったところで、あの車を運転している者の耳には届かないだろう。
桂の長い黒髪から水滴がぽたぽたと落ちる。
さて、どうしようか。
考え始めたとき、人が近づいてくる気配がした。
「……ウチ、近ェから寄ってけよ」
銀時がボソッといつものやる気のなさそうな顔で告げた。
万事屋の応接間兼居間である。
そこにあるソファに、桂は作務衣姿で腰かけていた。
銀時に声をかけられたあと、桂はためらいはしたものの、申し出を断るのは逃げであるような気がして、万事屋に行くことにした。
そして、万事屋にきて、銀時から風呂に入るようすすめられた。
びしょ濡れで気持ち悪かったので、桂はそうした。
風呂あがりには、銀時が寝間着にしているらしい作務衣を借りた。
桂の着ていたきものは干されている。
「ところで新八君たちはどうしたんだ」
テーブルをはさんで向かいのソファにだらしなく座っている銀時に問う。
「ああ、アイツらか」
銀時はソファの背から少し上体を起こした。
苦い物でも食べたような表情をしている。
「昨日、ちょっとケンカしてな。それで、新八のヤツが、実家に帰らせてもらいます! とか言って、それに神楽が定春と一緒についていったんだ」
二人と一匹は、現在、新八の家にいるらしい。
「実家に帰らせてもらうもなにも、アイツ、ウチには通いできてただけじゃねーか」
「だが、その通うのもなくなったんだろう」
「……うるさいのがいなくなって、せいせいした」
心にもないことを言う。
そう桂は思った。
銀時にとって彼らは家族のような大切な存在であるはずだ。
「新八君の家まで謝りに行ったらどうだ。どうせ、おまえが悪かったのだろう」
「ちげーよ! 俺ァ、ぜんぜん悪くねェよ」
そう主張し、銀時は不機嫌な表情で横を向いた。
素直ではないな。
仲直りするきっかけがほしいくせに。
桂はそう思ったが、それを言っても銀時は認めようとはしないだろうから事態は改善しないだろう。
今のところ、この件で自分ができることはない。
そう判断する。
時間が経てば、なにか修復するきっかけが発生したりと、変わってくるだろう。
しかし。
それにしても。
銀時が横を向いてから、会話が断絶してしまった。
二十年来の想いを告白してきた相手と、その想いにまったく気づかずにいた自分が、家にふたりきりで、会話なしの状況である。
非常に気まずい。