激ニブ星の恋人?
だが。
玄関のほうから物音が聞こえてきた。
強風が吹きつけてくる音、ではない。
「……マジかよ」
だれかが玄関の戸を開けようとしている音だ。
「無視してェェェ……!」
銀時は叫んだ。
しかし、無視できるわけがない。
というよりも、桂がすでに銀時の身体の下からいなくなっていた。
銀時は桂のほうに眼をやった。
桂は真剣な表情で刀を手にしている。
敵襲ではないかと警戒しているのだろう。
刀身は鞘から抜かれてはいないものの、いざとなったら瞬時に抜くつもりなのだ。
部屋の空気がピリピリと緊張している。
さっきまでとは雰囲気が一変してしまった。
もう取りもどせない。
玄関から歩いてくる足音がどんどん大きくなる。
この部屋へとやってきた。
部屋の障子が勢いよく開けられた。
廊下に立っていたのは。
「エリザベス……!」
桂が驚いた表情で名を呼んだ。
「どうしたんだ一体、今夜はクリスマスデートではなかったのか!?」
刀をあっさりと畳に置いて、エリザベスのほうに駆け寄る。
エリザベスは眼をそらし、うつむいた。
その身体からは、なんだか寂しげなオーラが漂っている。
桂はエリザベスのそばで立ち止まった。
「……そうか」
なにかを察したらしい。
「まあ、心の行き違いというのはよくあることだ」
いつもは激ニブのくせに。
そんな銀時の内心のツッコミについては、もちろん、桂は察しない。
「寒い中を帰ってきたのだから、身体が冷えきってしまっただろう。風呂にでも入って、暖まれ」
桂はエリザベスをうながした。
そして、エリザベスとともに居間から出ていった。
銀時はひとり残される。
「……むしろ、俺が無視されたじゃねェか」
ボソッと文句を言った。
しかし。
それでも、銀時はふっと笑う。
また邪魔が入って、一線を越えられなかった。
だが、邪魔が入るまでのことを思うと。
桂の告げたことが、頭によみがえった。
「まァ、そんなに悪くねークリスマスだな」
銀時は軽い調子でつぶやいた。