激ニブ星の恋人?
特別警察真選組屯所。
一般市民なら避けたいかもしれない場所に、万事屋三人とお妙は乗りこんでいた。
四人のまえには、近藤、土方、沖田がいる。
万事屋側と真選組側の間には机があり、お妙のまえにだけ茶が置かれていた。
「いくらお妙さんの頼みとはいえ、それには応じられません」
近藤は胸のまえで腕を組み、首を横に振った。
「桂を釈放する、なんて」
「ヅラを返すアル」
だが、神楽は引き下がらずに主張する。
「ヅラなんか捕まえてたって税金の無駄遣いになるだけアル」
「……それはどうなのかな、桂さんが聞いたらむしろ悲しいかもしれないよ」
「メガネはメガネらしく黙ってるアル!」
神楽は畳を踏みならして立ちあがった。
「今日は銀ちゃんの誕生日アル! だから、ヅラが必要アル!!」
そう真選組三人に訴えたあと、神楽は新八のほうを向く。
「ぱっつん、アレを!」
「ハイハイ、メガネはメガネらしく地味にちゃんと用意しておいたよ」
新八はいつのまにかリモコンを持っていて、部屋に置かれているテレビの電源を入れた。
そして、画面に映しだされたのは……。
激ニブ星の恋人?
ダイジェスト版
鬼兵隊メンバーでさえ味方に変えた大感動巨編である。
さらに、鬼兵隊メンバーが見たあとの分の映像も追加されていて、見応えたっぷりだ。
放映が終わった。
お妙はそっと涙をハンカチでぬぐっている。
そして、真選組側の反応は……。
「銀時ィィィィィ!」
近藤は銀時の隣に移動していた。
男泣きしている。
そして、銀時の手を握りしめ、もう片方の手で銀時の肩をバンバン叩く。
「銀時ィィィィィィィ!!」
「なんだよ、さっきから名前呼んでるだけじゃねェか。つーか、うるせェし、痛ェよ!」
銀時は文句を言った。
だが、近藤はそんな銀時に優しい眼差しを向けている。
その一方で、沖田と土方が小声で会話する。
「近藤さん、なんだか嬉しそうじゃねーですかィ?」
「それはアレだ、自分よりも下の存在をやっと見つけたからだろ」
小声ではあったが、銀時には聞こえていた。
「オイ、俺はゴリラより下の存在じゃねーぞ」
銀時はふたりに向かって言い、そして、ニヤリと笑う。
「なにしろ、想う相手をちゃーんと恋人にしたんだからなァ」
「二十年もかかりましたけどね、銀さん」
「それに一年経っても進展してないアル」
新八と神楽ののツッコミが胸に鋭く突き刺さり、銀時はうっとうめいたまま固まった。
近藤は、うんうん、とうなづいている。
「本当に苦労したんだな、いや、苦労しているんだな、おまえ」
「俺も泣けてきやした」
沖田が自分の顔を手のひらで覆った。
プッ。
「オイ、そこのドS、プッって聞こえてきたぞ。吹きだしたんだろ。泣いてるフリして笑ってんの隠してるだけだろ」
銀時の指摘に対し、沖田は答えない。
その顔は手のひらで覆われているので、どんな表情をしているのかわからないが、肩が震えている。
どうやら、やはり笑っているらしい。
いや、どうせ沖田のことだから、わざとだろう。
銀時はムッとする。
その肩をだれかが叩く。
土方だ。
「まあ、これでも食っとけ」
銀時のまえにある机にドンブリが置かれた。
マヨネーズがとぐろを巻いているマヨネーズ丼だ。
「……なんだ、コレ」
銀時は眼を細めた。
「まさか俺を励ましてるつもりじゃねーだろーな」
そう銀時は問いかけたが、土方は素知らぬ顔をして立ちあがった。
土方は銀時のほうを見ずにボソッと言う。
「礼はいらねェ」
「礼を言う気なんざ、もとからねーよ。つーか、いらねーよ、コレ」
しかし、土方はなにも聞こえていないような顔をして去っていった。